「今、リテーラー(小売業)は“リセット” の時代を迎えている」という考えに異を唱える方はいないでしょう。そしてそのリセットはCustomer Experience=CX(顧客体験)の新境地開拓によってもたらされます。
さらに、そのCX の新境地をもたらすものはと言えば「3 つのC」。Curated(厳選)、Convenien(t 便利)、Contactles(s 非接触)です。
さて、こうした一連の変化とは具体的にどういうものなのか。また、こうした変化を促しているものは何なのか。そして最終的な課題として、これらの変化をどのように受け入れてビジネスを変革させていけばいいのか。
今回は、小売、消費財分野に焦点を当てて、私の見解(perspective)をお伝えします。
タタコンサルタンシーサービシズ(TCS)は、世界中で260 社以上のリテーラーや消費財メーカーと取引をしています。
そして食料品やファッション、雑貨、ホームセンター、その他の分野において、75,000 人の社員全員が、各業界に関する知見、そこで使われるテクノロジー、さらにそのテクノロジーが企業の成長と変革を促進する上で果たす役割というものについて深く理解していると、自信を持ってお答えすることができます。
また私たちには、こうした知識と経験に加え、活発な研究と革新的なエコシステムがあります。これまでTCSは、このエコシステムを使って、特許、プラットフォーム、新製品、新たなビジネスモデルなどを数多く開発し、数多くのリテーラーのバリューチェーンを変革してきました。
幾つかの例を挙げます。
次に、業界動向の変化における幾つかのトレンドや重要ポイントを挙げます。
さて図1 は何を意味するでしょうか。また、リテーラーはお客さまのこのようなニーズの変化に、どのように対応すべきでしょうか。
一つ目は、全てのお客さまに対して、いかに魅力的な体験を提供するか。そしてその体験をいかにパーソナライズするかということです。
ご存じの通り、リテールチャネルは爆発的に増えていて、店舗からオンライン、モバイル、キャッシャーレス(レジなし)、音声、動画、ソーシャルコマースへと移行しています。このチャネルの急増は、今後も加速していくでしょう。そこで注意すべきは、お客さまがこれら全てのチャネルでお買い物をされる際に、大量のデータを残しているということです。そしてリテーラーは、このデータを取得し、処理し、精選し、プロセスやシステムを変更して、お客さまがどのチャネルで関わろうとも、パーソナライズされた体験を提供できる方法を見つけなければならないのです。
私たちはこの方法を「ユニファイドコマース(Unified Commerce)」※ 1 と呼んでいます。ユニファイドコマースでは、オンラインで購入して店舗で受け取ることができるだけでなく、モバイルスキャン&ゴー※ 2、カーブサイドピックアップ※ 3 などの機能を4 週間以内に実現できます。
二つ目に重要なことは、実現するためのプロセスと、そのプロセスを日々管理する関係者が、CX を提供するために必要な全てのことを、適切なテクノロジーでシームレスに処理できるようにすることです。つまり、サプライチェーンには認知機能を備えたインテリジェンスが必要で、これを扱う従業員にも、複雑なサプライチェーンと顧客のニーズをリアルタイムで管理するための能力、情報や洞察力を提供する技術が求められるのです。TCS は、米国最大手のスーパーマーケットであるクローガーや英国ネットスーパーのオカドと提携して、ロボットを使ってお客さまに素晴らしいショッピング体験を提供し、店舗でのピッキングの高速化やオペレーションの最適化を実現しています。
三つ目の要素は、製品主導型のアプローチから目的主導型のアプローチへの移行です。欧州のリテーラーは、食品情報や栄養情報に基づくエコシステムを活用して健康に関するパーソナルコーチになる道を模索しています。同様に、スポーツ用品のリテーラーも、健康とライフスタイルに関するコーチになりつつあります。
そして最後に、これまで解説してきたことは、イノベーションをビジネスやテクノロジー組織の日常的な機能に組み込むことによって、大幅に推進する必要があることを意味しています。現在私たちは、大容量のデータを活用できるようになりました。その中で企業は、人工知能、機械学習、IoT、ロボットなど、最新のテクノロジーを活用する必要に迫られています。そしてそれは、迅速な設計、構成、変更が可能なアルゴリズムのフレームワークを使った大容量データのリアルタイム処理によって、既に可能になっているのです。このようなアルゴリズム主導型のビジネスモデルを、私たちはアルゴリテール(Al go Ret ail )と呼んでいます。
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具体的な例を挙げてみましょう。ミネアポリスに本社を置く大手家電量販店であるベスト・バイは、競合他社のアマゾンに対して遅れを取っていました。ベスト・バイの店舗で商品を確認してからアマゾンで購入するという人が増え始め、ベスト・バイはショールームとして利用されるようになっていたのです。
しかし、ベスト・バイは自社の強みをしっかりと理解していました。第一に広範な店舗ネットワークと店舗面積、第二に電子機器に関する知識。この二つの強みを生かすための戦略を素早くまとめました。
それは商品に特化したアプローチから、商品とサービスを中心としたアプローチへの移行で、その中でベスト・バイは、あらゆる家庭のCIO(最高情報責任者)になろうと考えました。商品を購入して自宅で組み立て、さらにさまざまなテクノロジーを組み込むようなとき、非常に面倒な思いをして、誰か代わりにこの問題を解決してくれと思っているお客さまがたくさんいることを知っていたからです。
しかし、大きな問題がありました。技術ニーズやビジネスを理解し、変革をハイペースで進める意欲を持った人材を、いち早く補充しなければならないのですが、ミネアポリスやシアトルのセンターで探すのは無理な話。デリバリーセンターはあるものの、大量の人員削減が行われた後とあっては、規模の拡張などできるはずもありません。
一計を案じたTCS は、チェンナイに技術開発センターを設立。ミネアポリスとシアトル用の人員を必要なだけ、制限なしに増員しました。これで新機能の大規模開発というベスト・バイの目標は達成され、お客さまはカーブサイドピックアップであろうが、アレクサのようなスマートホーム機器の音声機能であろうが、望むものを簡単に手に入れることができるようになりました。
ベスト・バイには、お客さまにとってのヘルス&ウェルネスパートナーになるという目標もありましたが、その新たな市場にも参入する機会を得ることができました。近年、高齢になっても自立した生活を送りたいという方が増えています。そこでTCS では、ベスト・バイが機能開発したセンサー付き住宅に住む人の動きを追跡し、患者のケアや緊急時の援助を素早く行うビジネスの支援に乗り出しました。これは未開拓の市場で、大きなビジネスチャンスとなります。TCS とベストバイは、このプロジェクトを成功させるために、密接な連携を続けています。
今やデジタル技術は、ビジネスを変革し、最高にパーソナライズされた顧客体験を提供する上で欠かせません。TCSは、最新の技術とリテール分野の豊富な知見と実績で、お客さまをご支援していきます。
※掲載内容は2022年1月時点のものです。