アステラス製薬株式会社
RPA CoEによる自動化推進で社員を高付加価値業務へ
4年間で15億円のコスト削減を実現
研究開発型のグローバル製薬企業として、世界70カ国以上でビジネスを展開するアステラス製薬株式会社。2025年に向けたDXビジョンとして「デジタル革新を加速して科学の進歩を患者さんの『価値』に変えるワールドクラスのIntelligent Enterpriseとなる」を掲げる同社では、日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ(以下、日本TCS)の支援を通じてRPA Center of Excellence(CoE)を設立し、BOTを活用した定型業務の自動化に取り組んでいます。ダッシュボードを使った自動化の効果の見える化やモニタリングなど、さまざまな施策によってBOTの導入はグローバルで加速。約4年間でROIは5倍になり、1,000万USドル(約15億円)のコスト削減が実現しています。
実施前の課題 | 実施後の成果 |
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各拠点から収集される膨大なデータ処理など定型業務の自動化による人的な作業時間やコストの削減 | TCSのグローバルリソースを活用したRPA CoEを設立し、定型業務の自動化を推進。社員を高付加価値業務へシフト |
自動化の効果を最大化するための仕組みづくり | 効果を見える化しながら対象業務を拡大し、一過性でない効果的な自動化を追求 |
自動化のさらなる加速に向けた社員のデジタルケイパビリティの強化 | 市民開発の実践による社内人材のデジタルケイパビリティの強化、ビジネス変革の加速 |
背景・課題
ワールドクラスのIntelligent Enterpriseの実現を目指すアステラス製薬のビジネスでは、日々、世界70カ国以上の拠点から臨床試験データ、生産データをはじめとする膨大なデータが収集、蓄積されています。同社は2017年から定型業務におけるデータ処理の自動化に着手し、世界共通あるいは地域独自のBOTを開発しながら作業の効率化や人的エラーの防止、データの透明性や正確性の向上などに取り組んできました。
その後、一過性のBOT開発にとどまらず、将来に向けて自動化の効果を最大化していくことが重要だと考えた同社は、日本TCSの支援を受けて2019年にRPA CoEを設立しました。この経緯について、デジタルX FoundationX Foundation Platforms DevOpsの于継川(ウ ケイセン)氏は次のように説明します。
アステラス製薬株式会社
デジタルX FoundationX
Foundation Platforms DevOps
于 継川 氏
「日本TCS には2011年から戦略的パートナーとして、基幹系や個別業務など、さまざまな業務領域を横断した案件の支援をお願いしており、その実績は社内でも評価されていました。当社のビジネスを深く理解した上で、グローバルの拠点を横断して新たな仕組みを設計・導入・運用できるノウハウを持つことも評価のポイントでした」
取り組み
RPA CoEで対応する領域は、組織の広範な業務プロセスを高度に自動化するエンタープライズRPAが中心です。RPA CoEの設立にあたり、アステラス製薬が重視してきたのが自動化の効果を高めるための仕組みづくりでした。そこで、まず日本TCSの支援を通じてBOTによる業務の自動化をAI活用に発展させていくロードマップを作成。自動化の効果をダッシュボードで“見える化”しながら対象業務を拡大し、将来的にはAIを用いてより高精度な自動化を実現する段階的な取り組みを明確化しました。
設立当初は各部門のニーズを把握するため、トップダウンで全社からアイデアを収集し、BOTに適した業務を洗い出しながらユースケースを策定していきました。次の段階ではBOTによる自動化の手法をさらに進化させ、ツールやデータを使った対象業務の洗い出しや他のアプリケーションとの連携、ROIの測定などの一連のフローを整備しました。
効果の見える化については、2023年末から2024年前半にかけてAutomation AnywhereのCoE Managerを導入してダッシュボード化。現在はほとんどのBOTの導入効果をCoE Managerのインターフェースでモニタリングすることができ、人手による従来の作業時間とBOTによる処理時間を比較することで効果を定量化しています。
またBOTの効果を高めていくためには、ユースケースの収集・評価、開発見積、予算承認、開発など、BOT運用のプロセスを可能なかぎり標準化、効率化していく必要があります。そこで同社は、これらをエンドツーエンドで自動化する仕組みとして「オートメーションCoE」を構築。短期間でユースケースの評価を行い、開発につなげることができるようになりました。
効果
日本TCSとの協働を通じて進めてきたこれらの取り組みについて、于氏は「日本TCSからは、医薬品業界の厳しい規制を踏まえた適切な提案をいただいています。デジタルに関する知見も豊富で、DXの最新トレンドをキャッチアップすることができます」と評価しています。
また、同社への支援について、テクニカルマネージャーを務める日本TCSのラビ・ランジャンは「BOT開発からダッシュボードによる見える化まで、お客さまの要望や業界特有の要件を踏まえて幅広い領域で支援をさせていただいています。自動化ではSAPシステムを中心としたサプライチェーンマネジメント、マスターデータ管理、財務会計、規制関係、貿易関係などの業務に対応したほか、BOTの継続的な機能強化も行っています。メンバーは日本とインドから参加しているため、海外との時差をそれぞれのメンバーがカバーするなど柔軟に対応しています」と話します。
同じく日本TCSの営業担当の角田亮も「基幹系のSAPと業務系の各種システムの両方をカバーできるのがTCSの強みであり、今回のプロジェクトではお客さまのご協力も得ながら、その強みを遺憾なく発揮できました」と振り返ります。
RPA CoEを中心とした活動から生まれた具体的なユースケースの1つとして、臨床試験支払明細書作成の自動化があります。臨床試験の支払明細書の作成においては治験者の正確な来院データが必要ですが、これらは手作業で入力が行われてきたため、非効率かつヒューマンエラーのリスクがありました。
今回の自動化では、実施中の臨床試験の情報をコンフィグファイルに事前入力し、毎月第一稼働日にBOTが治験者の来院情報などをダウンロードすることで、支払明細書1部あたりの作成工数が2時間削減され、各医療機関に対する支払いの透明性と正確性が担保されるようになりました。
このように、BOTによる定型業務の自動化でコストや時間の削減が大幅に進み、社員はより付加価値の高い業務に集中できるようになりました。
「BOTによる自動化の積み重ねで2019年からの約4年間でROIは5倍になり、1,000万USドルのコスト削減が実現しました。付随効果として、現場から新たなBOT開発の依頼を受けた際、プロセスレビューによって改善点をフィードバックすることで、業務プロセス自体の改善にもつながっています」(于氏)
今後の展望
同社では今後、自動化をさらに加速させるための市民開発にも取り組んでいく計画です。自動化の対象となる業務は多岐にわたるため、業務に詳しい社員が開発に携わることでより細かなメッシュで自動化の実装が可能になります。ここでは、個々の社員のデジタルケイパビリティが大きな意味を持つようになります。
「当社では、2024年4月にデジタル&変革担当(Chief Digital & Transformation Officer:CDTO)を新設し、3年計画の『Digital X戦略』をスタートさせています。この計画では、社内人材のデジタルケイパビリティの強化によるビジネス変革の加速を目指しています。市民開発はまさにその第一歩となりますので、日本TCSにはさらなる支援を期待しています」(于氏)
日本TCSは今後も同社の戦略的パートナーとして、世界中の患者さんを支える新たな価値創出の取り組みにおいて大きな貢献を果たしていく考えです。
“日本TCSには、これまでも戦略的パートナーとしてさまざまな案件の支援をお願いしてきました。BOTを活用した定型業務の自動化についても、約4年間でROIは5倍になり、1,000万USドルのコスト削減が実現しました
アステラス製薬株式会社 于 継川 氏
設立:1923年
本社所在地:東京都中央区日本橋
資本金:1,030億100万円(2024年3月期末)
売上高:1兆6,037億円(2024年3月期末)
従業員数:14,754名(2024年3月期末、連結ベース)
事業内容:医薬品の製造・販売および輸出入
URL:https://www.astellas.com/jp/
※本事例の内容は2024年9月現在のものです。
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