株式会社カインズ
お客様と店舗メンバーの煩わしさを解消するため、日本のホームセンター業界で初めてアジャイル開発に取り組む。
売り場・在庫検索アプリ「Find in CAINZ」の開発で見えてきた「IT小売企業」への変革の道筋。
「くらしに、ららら。」でおなじみの株式会社カインズ(以下、カインズ)様は、物販チェーン6社を中心とするベイシアグループ様の一員であり、日本全国に217店舗(2020年4月末)を展開する大手ホームセンターです。「For the Customers」という経営理念の下、創業以来の信条として「3つの満足」(お客様の満足、お取引先の満足、社員の満足)を掲げ、ホームセンター業界でいち早くSPA(製造小売業)方式を導入するなど、小売業やホームセンターの枠にとらわれないさまざまな挑戦を続けてこられました。そして2019年3月には、2021年度までの3カ年中期経営計画「PROJECT KINDNESS(プロジェクト カインドネス)」を発表。「次のカインズをつくる」を目標に据え、戦略の柱として「StrategicBusiness Unit(SBU・戦略事業単位)戦略」「デジタル戦略」「空間戦略」を、そしてそれらを下支えする「メンバー(従業員)へのKINDNESS」を掲げ、持続的成長に向けた新たな挑戦を開始されたのです。
カインズ様では、PROJECT KINDNESS発表以前から顧客ロイヤリティを測るためにNPS(Net Promoter Score)を活用、お客様の評価を数値化し、サービスの改善につなげる取り組みを行ってきました。そこから浮かび上がってきたのが、店員が見つからない、商品が見つからない、レジが混んでいる、というお客様の不満の声でした。ベイシアグループ全体のIT、インフラを統括する、株式会社ベイシアベイシア流通技術研究所のグループIT戦略室ディレクタの竹永 靖様は、「持続的に成長していくためには、お客様が買い物をする際の煩わしさや不満を解消し、感動を呼び起こすような体験を提供することが不可欠です。さらに、店舗メンバーの作業効率化を図り、店舗メンバーの不満の解消も必要です。この二つを同時に実現するためにデジタル技術を活用した店舗オペレーションの改革に取り組むこととなりました」と語ります。こうして動き始めたのが、売り場・在庫検索アプリ「Find in CAINZ」開発プロジェクトでした。
当時、カインズ様の店舗では、お客様から店舗メンバーへの質問の約8割が、「この商品はどこにあるの?」という売り場にある商品に関するものでした。プロジェクトマネージャーとして、プロジェクトの取りまとめを担った販売本部 店舗オペレーション改善部部長の大塚 浩司様は、「ホームセンター特有の店舗の広さや、10 万SKU(取扱商品点数)以上にも及ぶ幅広い取扱商品により、お客様の質問に店舗メンバーがスピーディーかつ的確に対応することは困難でした。アルバイトメンバーが全てを把握するのはなおさら困難です。当社がベンチマークにしてきた米国最大のホームセンターでは、アプリを活用して商品の場所や在庫、商品情報を提供するなど、デジタル技術でお客様が満足する買い物体験を提供していたこともあり、当社でも検討を進めていたところ、中期経営計画でデジタル戦略が打ち出され、今回のプロジェクトに向けての動きが一気に加速しました」と振り返ります。
早速カインズ様では、プロジェクトのパートナーの選定を開始。「さまざまなベンダーと面談しましたが、その中でタタコンサルタンシーサービシズ(TCS)が際立ってグローバルで多くの小売業の実績やノウハウを持つことが決め手となり、日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ(日本TCS)をパートナーに選びました」(竹永様)
プロジェクトを進めるに当たり、日本TCSはアジャイル開発の採用を提案。カインズ様では、初めてとなるアジャイル開発に最初は不安もあったといいます。「アジャイルという言葉すら知りませんでしたから、最初の1カ月間は、長い時には朝から夕方まで日本TCS の皆さんとディスカッションをし、徐々にアジャイルの考え方、進め方を理解していきました。特に勉強になったのが、実現すべきこと、実現したいことの優先順位を決め、その通りに取り組むということです。私たちだけでは話が枝葉末節にいきがちなところを、何を実現したいかという目的を外さずにリードしてくれたことが、プロジェクトがスムーズに進んだ大きな要因の一つだと思います」と話すのは、プロジェクト立ち上げから専属メンバーとして加わった、デジタル戦略本部 デジタルイノベーション室 ストアイノベーション推進プロジェクトリーダー兼プロジェクトC+リーダーの水野 圭基様。
また、プロジェクトにおいてデジタル戦略本部との連携を担った、デジタル戦略本部IT戦略企画部業務企画グループの塚本 健太様は、アジャイル開発のメリットを次のように話します。「議論したものが約2週間後には形になって出てくる、というのは驚きでした。何かイメージしていたものと齟齬があってもすぐに修正し、翌週にはまたそれを確認することができます。実物を基に話ができるので、現場から上がってくる活発な声を積極的に取り入れることができましたし、非常にスピード感がありました」。このプロジェクトがきっかけとなり、今やカインズ様ではアジャイルが主流になりつつあるといいます。
こうして完成した「Find in CAINZ」は、商品名やキーワード、JANコードを入力すれば、その商品の売り場や在庫数などを即時に把握できる店舗メンバー用のアプリです。店舗メンバーが店内で使用する携帯端末「SITE Phone」にアプリを搭載し、接客時や品出し時に活用します。これにより、広い店内で商品を探すお客様のストレス、商品を補充する店舗メンバーの業務負担の軽減などにつなげ、お客様に、よりKINDNESSなサービスの提供が可能となりました。
2019年10月に、まずカインズ様の本庄早稲田店(埼玉県)にSITE Phone40台が導入され、2020年1月には全店への導入が完了。お客様からも、店舗メンバーからも高く評価され、さまざまな効果が生まれているといいます。今回のプロジェクトにおいて、業務側との橋渡し役を担った販売本部 販売戦略部 販売企画室 企画・調査マネージャー兼メンバーアプリプロジェクトリーダーの田村 政弘様は、「現場の声をシステムに反映できたことでとても好評です。実は、プロジェクトがスタートした当初、ベテランのメンバーからは本当に必要なのかという声もありましたが、その便利さから今では積極的に使ってくれるようになりました。また、ある店舗では、『お店の方の対応が早くて、目的のものをスムーズに買うことができた』というお褒めの言葉をいただきました。この対応をしたのはアルバイトメンバーでした。さらに、当社のヘルプデスクへの問合せ件数が、「Find in CAINZ」導入前と比較すると約30%も減っています」とその効果を話します。
店舗メンバーにとってもメリットは大きく、「お客様をお待たせする時間が少なくなり、心に余裕ができたことで、より一層自信を持って接客ができるようになったのは最大の効果です。品出しの時間も大幅に短縮され、その他の業務を効率よく進められるようにもなっています」と大塚様。
さまざまな効果を生み出している今回のプロジェクト。その成功要因の一つは、より簡単な操作を実現したことだとプロジェクトメンバーは口をそろえます。「できる限りタップ数を少なくするなど、こだわり抜いた結果、ベテランも含めみんなに活用してもらえるものに仕上げることができました」。
また竹永様は、「当社は、本来、一人一人がいろいろな業務をこなすマルチタスクの文化ですが、今回のプロジェクトでは専属でアサインしました。それも、店舗の現場をよく知っている社員です。これがプロジェクトを成功させるに当たり非常に大きかったと思います。さらに、日本TCSがわれわれの業務をよく理解し、単なるベンダーとしてではなく、パートナーとして、さまざまなナレッジを有するグローバルのチームと、日本企業の商習慣を熟知した日本人チームとのハイブリッドな体制で多くの提案をしてくれたことが成功の要因です」と語ります。
カインズ様では、「Find in CAINZ」のさらなる高度化を目指し、さまざまな機能追加の検討を進めています。
「商品にSITE Phoneをかざせば詳しい説明が出てきたり、直接メーカーのサイトにつなげるなど、デジタルを活用して実現したいことはまだまだたくさんあります。小売りというのは、商品が多く、いろいろな要素が絡み合う非常に難しい業態ですが、日本TCSには当社の業務をもっと深く理解してもらい、引き続きサポートしてもらいたいと思います」(大塚様)。また、竹永様は「プロジェクトのファーストステップ終盤では、チェンナイにあるTCSのキャンパスを訪ねました。最前線の現場の雰囲気を肌で感じ、ディスカッションを通じてTCSのケーパビリティを改めて認知し、これならわれわれが目指すものを実現できるという確信を得ました」と語られています。
「IT小売企業」としての地位を確立し、お客様へのKINDNESSなサービスを通して、人々の豊かな暮らしづくりへの貢献を目指していくと話す竹永様。日本TCSに対しては、次のように語ります。「これまでの活動をさらにステップアップさせ、その先で何を生み出せるかが、日本TCSとカインズのパートナーシップの真価が問われるところだと思います。現在の「Find in CAINZ」をさらに便利にし、真の「For the Customers」、あるいは社員へのKINDNESSを高めるのはここからです。ぜひ、パートナーとしてともに取り組んでもらいたいと思います」(竹永様)。
日本TCSは、グローバルな知見を生かし、カインズ様の「IT小売企業」への挑戦をご支援していきます。
本庄市早稲田の本部前でカインズ様と日本TCSプロジェクトメンバー
竹永 靖 様
株式会社ベイシア
ベイシア流通技術研究所
グループIT戦略室 ディレクタ
大塚 浩司 様 株式会社カインズ 販売本部 店舗オペレーション改善部 部長 |
田村 政弘 様
株式会社カインズ
販売本部 販売戦略部 販売企画室
企画・調査マネージャー兼メンバー
アプリプロジェクトリーダー
水野 圭基 様
株式会社カインズ
デジタル戦略本部 デジタルイノベーション室
ストアイノベーション推進プロジェクトリーダー
兼プロジェクトC+リーダー
※掲載内容は2020年5月時点のものです