ジャガー・ランドローバー・ジャパン株式会社
現代の小売業においては、商品やサービスを購入する際に、価格の比較や支払方法、キャンペーンなどの割り引きや在庫の状況、配送日時、商品レビューなど、購入決定に必要なあらゆる情報に対してオンラインでアクセスできることが当たり前となっています。しかし輸入自動車業界は、他業界と比較して、デジタル施策とオンラインセールス環境では大きく遅れているのが現状です。アクセンチュアが2015年に行った調査によると、日本で車を購入する人の81%以上が、メーカーのウェブサイトやSNSなどで購入する車を検討しており、さらにその42%はリテーラー(販売代理店)を訪れる前に購入する車種を1〜2 種類に絞っています。一方で自動車を販売するリテーラーは、顧客がオンラインで収集・検討した情報を共有できるチャネルを持たないため、店舗へ足を運んだ顧客に対して一から提案を行っていました。
この課題を念頭に、顧客の購買体験変革へ乗り出したのが、ジャガー・ランドローバー・リミテッド(JLR)様です。JLR 様の日本法人である、ジャガー・ランドローバー・ジャパン株式会社(JLR ジャパン)様のマーケティング・広報部、デジタルマーケティング・マネージャーの渡邊昭仁様は、本プロジェクトの目的を次のように述べます。
「これまでの輸入自動車業界は、店舗型のリテーラーに重きを置いた、オフライン重視の販売スタイルでした。しかし近年は顧客のデジタル志向が非常に高まり、ショールームへ行く前に、ウェブ上で直感的な購買体験をしたいというニーズが高まっています。さらに、店舗に足を運ぶまでどんな車種が在庫としてあるかがわかりにくいという声もありました。在庫状況を可視化し、顧客が好みの車を楽しみながら選ぶという体験をするためのプラットフォームが求められていました」(渡邊様)
こうした課題の解決のためにJLR 様が乗り出したのが、顧客がウェブ上で車種を比較検討し、その情報をリテーラーと共有するシステム「オンライン・セールス・アドバイザー(OSA)」の開発です。JLR ジャパン様のビジネスサービス部、IT マネージャーの鍛治邦充様は、「当社にとってOSA の開発は、販売のオムニチャネル化を推進し、次世代のデジタル戦略へ第一歩を踏み出す重要なプロジェクト。オンライン顧客をオフラインのリテーラーへつなげることに加え、デジタル世代にJLR ブランドを訴求することで、若い顧客層を獲得することも大きな目的でした」と話します。
タタコンサルタンシーサービシズ(TCS)は、これまでもJLR 様のシステム開発をグローバルにサポートしてきました。この実績を評価したJLR 様は、複数地域でのローンチを前提としたOSA の開発を日本市場からスタートするに当たり、日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ(日本TCS)を開発パートナーとして選定されました。
「TCS は世界でも有数のIT サービス企業であり、開発に求められる潤沢なリソースや柔軟さにおいて非常に高いプレゼンスを有しています。さらに、グローバルへのロールアウトが予定されていた本プロジェクトにおいては、世界各国のフィロソフィーを知っているという点でも、日本TCS への期待は他社に抜きん出ていました」(鍛治様)
OSA は、顧客がウェブ上で車種を比較・検討し、見積もりや下取り、ローン計算をシミュレートでき、スムーズな商談予約を可能にするオンライン予約システムです。選択した車種や見積金額は保存され、リテーラーが通常業務で使用するSalesforce を経由して、商談を行う店舗へと伝達されます。顧客にとっては、実際にショールームへ足を運ぶ段階で関心のある車種やファイナンスプランがリテーラーに伝わっており、時間を節約できるという利点があります。リテーラーにとっては、今までリーチしにくかったオンライン顧客に働き掛け、店舗へ来てもらえるようになります。OSA の特徴として、Salesforce の「Community Cloud」という機能を活用している点が挙げられます。
一般的にCommunity Cloud はリテーラーのようなビジネスパートナーと情報を共有するために使われますが、今回のプロジェクトでは、この機能を顧客に対してオープンなウェブサイトとして利用。顧客がウェブ上で保存した情報をSalesforceに集約します。JLR 様はSalesforceの「Community Cloud Customer Trailblazers」において「Trailblazers of The Year」の表彰を受賞しています。
本プロジェクトのもう一つの特徴は、アジャイル開発の手法を採用した点です。OSA の開発に当たり、JLR 様の求められたスケジュールは非常にタイトでした。そこでミニマム・バイアブル・プロダクト(MVP)の考え方に立ち、必要最小限の機能を実装したシステムを短期間でつくり上げることを目標としました。要件定義に当たっては、想定されるユーザーのニーズと行動をJLR 様と議論してユーザーストーリーに落とし込みながら、短いサイクルで実装と改良を繰り返していきました。
「これまでJLR ジャパンが行ったシステム開発の多くは従来のウォーターフォール型で、アジャイル開発を行うのは初めての試みでした。社内には、3 歩進んで2歩下がるようなアジャイルのやり方に戸惑う社員もいましたが、日本TCS の担当者が積極的にコミュニケーションを取り、プロジェクトマネジメントを担ってくれたため、不慣れな社員も徐々に納得感を持ってプロジェクトに参加することができました。電話会議を毎日行っていろんな意見を出し合うことで、システムが日増しに良くなっていきました」(渡邊様)
今回の開発におけるキーワードは「クロスオーガニゼーション」。英国のJLR 様とJLR ジャパン様が協働してプロジェクトを進める中で、両社のIT 部門だけでなく、マーケティングやセールスの部門との調整が必要でした。日本TCS は、JLR様とJLR ジャパン様の要望にギャップが生じた際に、日本市場に向けて必要な機能についての説明を行うなど、両社のコミュニケーションを橋渡ししました。さらに、ファイナンス用のウェブAPI やUI デザインは他ベンダーが担当したため、プロジェクトに関わるステークホルダーが非常に多くなりました。日本TCS は本件のプロジェクトマネジメントを担当。全体に遅れが発生しないよう、他ベンダーの開発状況をマネージしました。
一般的に輸入車の在庫販売では、足を運んだショールームに在庫のある車種の中から、リテーラーの勧めに従って購入する商談プロセスが多いといいます。
OSA は、顧客が自分好みの車種を見つけ出して購入するという、顧客主導型の購入プロセスを実現しました。実際にOSAを経由してショールームに来店した顧客からも、その能動的な体験をポジティブにご評価いただいているそうです。
JLR 様のオーバーシーズ・オペレーションズ部門、ビジネス・ディベロップメント・マネージャーのセルゲイ コロレフ様は、本プロジェクトのグローバル戦略における意義を次のように述べます。
「JLR は、オンラインセールスのプラットフォームを15 カ国7 市場で展開してます。それらの中でも、OSA は最重要市場の一つである日本に向けて開発したもので、当社のグローバル戦略において大きな役割を果たします。私たちが新たにプラットフォームを構築する際には、市場ごとに異なる顧客のメンタリティや地域特有の事情など、多くの要素を考慮します。日本市場は、非常に成熟した、『好みのうるさい』市場であり、日本TCS は私たちが日本市場へリーチするために最大限のサポートをしてくれました。実際にJLR とJLR ジャパン、日本TCS とグローバルのTCS のメンバーは、ワンチームで協働したといえます。定期的な電話会議を通じて常にアイデアを出し合い、他の地域へのロールアウトも想定しながら、さまざまな機能の実装まで一直線に進むことができました」(コロレフ様)
今後も日本TCS は、JLR 様・JLR ジャパン様とワンチームで協働し、アジャイル開発をはじめとする最先端の知見を基に、そのグローバル戦略を強力にご支援してまいります。
プロフィール
渡邊 昭仁 様
ジャガー・ランドローバー・ジャパン株式会社
マーケティング・広報部
デジタルマーケティング マネージャー
鍛治 邦充 様
ジャガー・ランドローバー・ジャパン株式会社
ビジネスサービス部
IT マネージャー
セルゲイ コロレフ 様
ジャガー・ランドローバー・リミテッド
オーバーシーズ・オペレーションズ
ビジネス・ディベロップメント・マネージャー
ジャガー・ランドローバー・ジャパン株式会社
設立:2008年
本社所在地:東京都品川区
事業内容:ジャガーブランドならびにランドローバーブランドの自動車の輸入販売、 関連部品・用品の開発販売、アフターセールスビジネス、車両整備・サービスおよび保険業務の扱いなど
【オンライン・セールス・アドバイザー】
・ジャガー
https://online-sales-advisor.jaguar.co.jp
・ランドローバー
https://online-sales-advisor.landrover.co.jp
※掲載内容は2018年6月時点のものです