花王株式会社
パートナーと共に、日本でも世界でも生活者に選ばれる企業へ
異文化と信頼関係が織り成すグローバル展開
『豊かな共生世界の実現』をパーパスとする花王株式会社(花王)。生活者向けに『ハイジーン&リビングケア』『ヘルス&ビューティケア』『ライフケア』『化粧品』の事業分野でコンシューマープロダクツ製品を提供し、さらに、産業界の多様なニーズに応える化学工業製品を提供する『ケミカル』事業も手掛けています。
日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ(日本TCS)では、2015 年から花王の事業を支えるシステムのグローバル展開をはじめとした花王の情報システムの支援を行っています。
花王の情報システム部門統括を担当する執行役員の原田 良一氏と、日本TCS の副社長執行役員 最高執行責任者であるサティシュ ティアガラジャンとの対話を通じて、両社のこれまでの取り組みからビジネスを発展させるためのテクノロジーやパートナーとの関係について紹介します。
サティシュ──花王は、約30 の国と地域に拠点を置き、コンシューマー製品だけでなく、産業向けのケミカル事業など、グローバルに事業を展開されています。まずは、読者に向けて、事業の状況を教えてください。
原田──当社は、2019 年にESG 戦略 Kirei Lifestyle Plan を策定し、コーポレートメッセージ『きれいを こころに 未来に』を定めて、すべての人と地球にとってより清潔で美しく健やかな生活を創造することを宣言しました。そして2023 年に『グローバル・シャープトップ戦略』を掲げ、お客さまのニーズに、エッジの効いたブランドやソリューションで世界No.1 の貢献をするための取り組みをしています。消費財などのコンシューマー製品が少なくなっている中、地球環境や命にも目を向け、生活者や社会に欠かせない、繰り返し選ばれる存在になりたいと考えています。
サティシュ──多様化する顧客ニーズに応えていくこと、企業として環境や社会に貢献することは、消費財だけでなく、さまざまな業界の重要なテーマです。『豊かな共生世界の実現』というパーパスを掲げる花王におけるテクノロジーの活用についてもお聞かせいただけますか。
原田──はい。われわれ情報システム部門としては、“ 人” と“ 社会” と“ 地球” にとって、最も優れた製品やサービスをグローバルに安定的に供給することを“ コア” に置き、何をしていかなくてはならないかを常に考えています。具体的には、生活者ニーズの探索と商品開発をPLM(プロダクトライフサイクルマネジメント)、PLM で生まれてきた製品やサービスの調達から販売までの一元管理によるプロセス最適化をSCM(サプライチェーンマネジメント)、生活者との関係構築をCRM(カスタマーリレーションシップマネジメント)で担っています。同時に、花王の価値を生み出している社員の生産性向上と働きやすい環境の提供を目指し、ESM(エンタープライズサービスマネジメント)の整備にも注力しています。これらの要素を連携して花王のビジネスを支えています。
サティシュ── 2015 年から花王と日本TCS とのお付き合いがスタートしましたが、当時の状況をお聞かせいただけますか。
原田──当時、花王は海外拠点向けにSAP の基盤を構築していて、各国への展開力をさらに強化したいと考えていました。IT の世界では、品質、コスト、納期が重要ですが、SAP によるシステムの標準化で、海外拠点ごとにシステムを作る必要がなくなりました。おかげで、リソースを集中投下でき、品質とコストの面ではよかったのですが、世界中への展開といった面では、満足できるスピードが出なかったという課題がありました。ちょうど2015 年ごろ、ケミカル事業に化学物質を管理する貿易システムのレベルアップを目指し、SAP G lobal Trade Services(GTS)を導入するプロジェクトがスタートしました。この導入には48 カ月かかると見込まれていましたが、ビジネス部門が要求した期限は24 カ月と、大きなギャップがありました。ビジネス部門の要求に応えるために、どうやって進めるべきかいろいろ検討しましたね。
サティシュ──納期を半分に縮めるために、どのような方針を立てたのでしょうか。
原田──今までのやり方に一切固執することなく、新しいやり方を模索しました。その過程で、ご縁があったのが日本TCS です。親会社のタタコンサルタンシーサービシズ(TCS)が、SAP 認定グローバルサービスパートナーとして多くのSAPコンサルタントを擁し、GTS の豊富な導入・バージョンアップ実績を持つだけでなく、花王がビジネスを展開する世界各国に拠点も有していました。将来も見据えたサポートが可能なことだけでなく、われわれのニーズを実現できるであろう理念というか、仕事に対する信念を持っていたこともあり、言ってみれば、日本TCS に賭けてみたんです。結果的に、2015 年7 月プロジェクトを開始し、2017 年4月に対象会社全てにGTS の導入を完了することができました。現地のユーザーからも非常に丁寧で親身になって考えてくれる会社だと好評でした。
サティシュ──ありがとうございます。当時、私たちのように外資系企業や中でもインド発のIT 企業と組むことに対し、社内ではどのような議論がされましたか。
原田──パートナーを選定するに当たっては、グローバル展開力のある企業を探し、TCS 以外のインド含む外資系企業の方々とも話をしていました。日本TCS を選定したのは、日本企業のことをよく理解していることでした。花王の場合、システムの本部が日本にあるため、仕様書やマニュアル、FAQ など多くのドキュメントが日本語で作成されていました。国内のみで利用するシステムであれば、ドキュメントが日本語で作成されていることに問題ありませんが、グローバルに展開しようとしたとき、現地の言語や仕事の仕方を理解した上で、システムの“ 幹” を作らなくてはならない。そういった点で、日本TCS は、日本を含むグローバルを対象にしながらも日本固有の仕組みも作れ、グローバルでも日本でも戦える。このハイブリッドなところが非常に優れていて、パートナーとして選定してよかったと実感しています。
サティシュ──おっしゃる通り、日本TCS を入り口に、ハイブリッド体制でグローバルのノウハウやリソースを活用していただけるのは、当社の強みの一つです。とはいえ、初めてプロジェクトを任せる際は、不安はなかったのでしょうか。
原田──当初は初めてのお付き合いだったので、比較的小さなプロジェクトから始めて、さらに次のプロジェクトを成功に導き、相互に理解しながら着実に実績を重ねてきました。期待通り、日本TCSと組んで正解でしたね。今や花王メンバーの日本TCS に対する信頼はとても厚く、冗談交じりに「あまり有名になってほしくない」と言うこともあります。お気に入りのお店は他人に教えたくありませんよね。そんな特別な関係を大切にしています。
“TCSとの関係は「お気に入りのお店を 他人に教えたくない」のと 似ていますね
サティシュ──私自身は2019 年から花王のプロジェクトに関わっていますが、それ以前から両社の間には非常に良い関係が構築されていると感じました。私たちは、まずお互いの期待を理解することから始めますが、原田さんや現場をリードする当社のチームリーダーたちの相互理解が土台となっています。両社の柔軟性や受け入れる姿勢によって、当社のメンバーの創造性も高まります。お互いの協力なしにはプロジェクトの成功は困難です。
原田──おっしゃる通り、私たちは、共に関係を構築し、一緒にやり方を作ってきました。異なる企業文化の中から、腹を割って話し合い、「花王さん、それはどういう意味でしょう?」「このやり方では、期限は守れません」と、互いの改善点を指摘し合い、互いに高め合ってきました。良くないところはそぎ落とし、良い部分を組み合わせる中で、強固な信頼関係を構築できたのが最大の成果だと思っています。また、日本TCS には、優秀な人材が豊富でリーダーシップを発揮してくれたことも、プロジェクトを成功に導く一因と考えています。
サティシュ──これまで、花王の複数のプロジェクトを成功裏にサポートすることができたと感じています。最近の例では、アジア太平洋地域で展開したもので、非常にタイトなスケジュールのプロジェクトでしたが、花王と日本TCS がチーム一丸となって取り組んでいました。これができるのもリーダーシップのコミット、相性の良さですね。当社のシニアリーダーも関与し、安定したリーダーシップを発揮することができました。当社のメンバーにとっても、花王と協業しビジネスに接することで、得られる学びや貴重な機会を得て、高いモチベーションで働けています。お互いの協力なしにはプロジェクトの成功は困難です。現在、花王の情報システムの中で大きなプロジェクトの一つが、SAP S/4HANA へのバージョンアップですね。
原田──はい。このプロジェクトは全世界の拠点を対象としており、アジア全てと、欧米のケミカル事業の会社、そして日本と進行していきます。日本TCS は、先行していた他パートナー企業と共に、このプロジェクトに深く関わり、日本向けは全て対応いただく予定です。日本TCS は花王の業務を理解しながら、プロジェクト参画メンバーが途切れることなく情報を残して引き継ぎを行います。日本にCoE(センター・オブ・エクセレンス)を置きながら、各国を動かすノウハウを持っていることも魅力的です。アジア、欧米、そして日本の異なる業務スタイルに適応し、共通点と地域特有の要素を見極めながら効果的に対応する日本TCS のアプローチに感謝し絶大な信頼を寄せています。
サティシュ──当社としても、花王の戦略に沿ったシステム・インテグレーションを提供し、重要なパートナーの一社としての役割を担わせてもらっていることに感謝しています。私が、パートナーとして取り組む上で、重要だと感じていることは、期待に対する理解、リスクに対する評価、チームに対する信頼です。それらが、コストと品質、スケジュールを決定する三つの要素になると思います。また、当社は、CRM、SCM、PLM などのいわゆるデジタルスレッド分野での豊富な経験や、業界に関するドメインナレッジも持ち合わせています。今後も関係を深めつつ、その能力を最大限に発揮していきたいと考えています。
サティシュ──花王の情報システム部門としては、今後どのようなテクノロジーを活用したいとお考えでしょうか。
原田──花王は、グローバル・シャープトップ事業の構築に向けて、グローバルに競争をしていかなければなりません。これに対応するため、データドリブンなアプローチで異なる国や地域の市場と多様な生活者の傾向を理解し、戦略を調整する必要があります。
サティシュ──同感です。グローバル企業が先行していたデータドリブン経営は日本企業にも浸透しつつあり、TCS も分散したデータを一元化してビジネス成果を向上させる動きに加わっています。私たちは花王のデータに関するニーズを深く理解し、データを活用した経営支援の方法を一緒に探求していきたいと考えています。
原田──もう一つの課題は、社員の高齢化と労働人口の減少です。ノウハウの継承と生産性維持を難しくしています。そこでAIやChatGPT のような先進技術を活用することが、これらの課題に対処するための鍵となるでしょう。
サティシュ── AI はChatGPT などが大きな話題になっていますね。AI のビジネスや生産性への広範な影響はまだ完全には理解されていないものの、CRM や顧客サービスの分野で有効な使用例があります。また、自動車業界では製品設計にLLM( 大規模言語モデル) を使用し、製品設計のリードタイムを大幅に短縮するなどの例もあります。中でもデータ移行とIT サポート効率化の二つの分野に注目しています。AI やLLM を利用することで、データベースのバージョンアップやCOBOL をJava に変換するといったプログラミング言語の変換が容易になり、技術的アップグレードが圧倒的に容易になります。IT サポートの生産性を30%から40%ほど向上させるなど、当社でもAI を活用したさまざまな取り組みを行っており、そこで得たノウハウをアプリケーション開発などお客さまへのサービスでも活用しています。特に人材不足の問題を抱える日本では、ビジネスの生産性向上に大きく貢献するでしょう。
原田──その通りですね。今後は、SAP S/4HANA の導入を進める一方で、将来のERP のデザインについても考慮し、実現可能な範囲から段階的にシステムを更新していくことが必要だと考えています。さらに、生活者を深く理解し、良好な関係を築くCRM の導入が重要だと考えられています。私が担当する情報基盤からセキュリティーに至るまで幅広い範囲の中で、日本TCSには引き続き信頼できるパートナーでいてほしいという願いがあります。
サティシュ──私たちは、花王のパートナーとして、求められているニーズに今後も応えていきたいと考えています。当社は、テクノロジーの進化に合わせて、専門知識を生かしたコンサルティングを提供できる企業です。提供できる最大の価値の一つが、グローバルでの経験です。世界各地のお客さまがどのような取り組みをしてきたか、世界のベストプラクティスを花王にどのように導入するかを共有し、花王の“ コア” となる事業の発展とグローバル企業への進化をサポートします。そのために、引き続き人材と技術・スキルの強化に注力してまいります。
“花王とTCS のワンチームは、それぞれの柔軟性とお互いを理解しようとする姿勢があってこそ
創業:1887 年
本社所在地:東京都中央区
事業内容:ハイジーン&リビングケア事業、ヘルス& ビューティケア事業、ライフケア事業、化粧品事業、ケミカル事業
※掲載内容は2024年3月時点のものです