UBE三菱セメント株式会社
UBE三菱セメント株式会社(MUCC)は、三菱マテリアル株式会社と宇部興産(現UBE)株式会社、宇部三菱セメント株式会社のセメント事業および関連事業を統合して誕生。社会インフラの整備に向けた基礎素材の安心・安定供給と、循環型社会の発展に貢献することを通じて、人と地球の持続可能な未来を支え続けることを使命に掲げ、2022年4月から新会社として営業を開始しました。その使命実現に欠かせない、3社間のシステム統合および、新会社の基幹業務システム導入から運用まで日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ(日本TCS)が支援しました。このプロジェクトを率いたMUCC 情報システム部の国井 巌 部長に、プロジェクトを振り返り、お話を伺いました。
プロフィール
UBE三菱セメント株式会社
情報システム部
国井 巌 部長
――国内での安定的な運営と持続的なグローバルでの成長を遂げるため、新会社を設立されました。そしてこの新会社がスタートを切るための経営基盤整備という重要なプロジェクトを、日本TCSがお手伝いさせていただきました。今回は、プロジェクトを振り返りながら、成功のカギや工夫された点などについてお伺いしたいと思います。まずは、プロジェクト始動のきっかけについてお聞かせいただけますでしょうか。
国井――今回のプロジェクトには、2022年4月の新会社の営業開始までに、システム統合を果たし、MUCCとして新たなスタートを切るという命題がありました。そこで、日本TCSの協力の下、『SAP S/4HANA® Cloud』を中核とするクラウドオファリング『RISE with SAP』を導入・稼働させるプロジェクトを始動させました。
――新会社の基幹システムとして『RISE with SAP』を選ばれましたが、その理由はどこにありましたか。
国井――グローバルでの成長を目指す当社にとっては、グローバルスタンダードで高い実績があるシステムの選択は必須でした。さらに、DX推進やサプライチェーン最適化、サステナブルな企業経営などに必要なサービスとツールが包括的に提供されていて、機能拡張やDXへの対応がしやすいことなどがポイントでした。
――今後のビジネスの進化も見据えてシステムを選定されたということですね。プロジェクトの遂行に当たって、最も大きな課題となったのが、非常にタイトなスケジュールだったのではないでしょうか。
国井――その通りです。2022年4月までに新基幹システムを稼働させることは必達事項で、プロジェクトの全体計画策定、システム構築の推進、業務プロセス定着のためのユーザートレーニングなど、日本TCSに担当いただいた領域に関しては、1年足らずのスケジュールでしたね。基幹システムの導入というと、場合によっては2~3年ほどかかることもありますが、この短納期で何としてもやり遂げるためには、“Fit to Standard” を徹底する必要がありました。SAPの標準機能を最大限に活用することを前提として、アドオンの追加開発は極力行わないという方針です。もう一つ、導入の基本方針として掲げたのが“クラウドファースト”です。
――今回の3社間かつ短期間でのシステムの統合と開発を行う上で、明確な方針が重要だったと思います。“Fit to Standard”の実現に向けて、スタート時点から「SAPの標準機能でいかに業務を回すか」を第一義にしたことが、プロジェクト完遂の大きなカギだったのではないでしょうか。
国井――そうですね。これまでは、各社それぞれの業務フローで動いていたわけですから、さまざまな希望はあったでしょう。しかし、それら一つ一つにこだわっていては、統合のメリットは生まれません。期日までにゼロベースでシステムを構築するんだという強い思いの下、“新社として”という言葉を常に主語に置くことをプロジェクトメンバー全員で共有し、意識しました。その上で私が注力したのは、議論が必要以上に拡散や矮小化しないようにすることです。細かいことにこだわっていては、大きな目的を見失ってしまいます。とにかく新社にふさわしいシステム基盤を構築するというプロジェクトの目的を皆さんに理解してもらい、フォーカスを絞った議論が行われるようにしました。その結果、何十年も持つシステム基盤をつくろうという共通認識が生まれ、そのためには“Fit to Standard”が欠かせない方針であることを共有できたのだと思います。
――国井様をはじめとするMUCC様の強い思いとリーダーシップが、このプロジェクトの大きな原動力だったのですね。当社のプロジェクトメンバーからは、皆さんの強い意思に後押しされ、一層力を発揮することができた、と聞いています。今回のプロジェクトでは、標準機能フィット率が約95%という驚異的な数字を達成しました。予定通りの期間で実現させるためにどのようなことが必要でしたか。
国井――“Fit to Standard”を実現すれば、開発期間の短縮だけでなく、コスト面でも大きなメリットが生まれます。このプロジェクトの方針に対する、それぞれの経理部門の理解や協力が大きかったと思います。実際、アドオン開発が少しでも増えていたら、3月末の稼働は難しかったかもしれません。日本TCSの方々は、ITの現場をよく知っているだけでなく、会計知識もあり、常に適切な選択肢を提示していただけました。われわれはそれらを比較して選ぶ。そういう役割分担がとてもうまくいったのだと思います。
――「決めるのはお客さま」とよくいわれますが、それがなかなか難しく、決め切れないケースが多々あると思われます。当社が提出した選択肢を受けて、迅速に決定していただけたことが、本稼働日の厳守につながったということもありますか。
国井――“Fit to Standard”のメリットは、まさにそこにあります。システムの開発方法は無限にありますが、それがSAPだと二つか三つに絞られます。そこから選択肢をいかに増やすことなく、迅速に進めていくかが肝心なんです。
――今回のシステム導入に当たって、当社をパートナーとして指名いただいたポイントをお聞かせください。
国井――第一にはSAPに関して、コンサルティングから導入、ユーザートレーニング、運用・保守まで一気通貫で対応できる豊富な知見です。さらに、周辺システムへの対応力やグローバル展開を見据えてタタコンサルタンシーサービシズ(TCS)のグローバルネットワークの活用が可能なことも大きな理由です。日本TCSの強みは、ベンダーでもあり、SIerでもあり、コンサルでもあることだと、今回のプロジェクトを通じて実感しました。とにかく実務経験に長けた人材ぞろいで、ITだけでなく、ビジネスの理解もある。とても心強く、さまざまな場面で実力を発揮していただきました。プロジェクトメンバー全員が、「困ったことがあったら、とりあえずTCSさんに!」という感じでしたよ。
――大変励みになるお言葉です。国井様をはじめとするMUCCの皆さんが強いコンセンサスとリーダーシップを発揮し、プロジェクトの基本方針を崩すことなく推進してくださったおかげだと聞いています。また、日本TCSをIT戦略パートナーとして頼りにしていただけたことで、当社のさまざまな強みを生かしていただけたのではないでしょうか。
国井――そうですね。TCSはグローバルでERPに関する豊富な知見だけでなく、幅広いテクノロジーサービスやリソースを擁しており、大いに助かりました。
――ありがとうございます。特に今回の規模や納期では、TCSのグローバルの協力なしには難しいケースだったのではないかと思います。スケジュールや最適なマネジメントを考え、お客さまと直接やりとりするのは日本TCSの社員が担いました。一方、プロジェクトの方針や進捗状況を常に日本とインドで情報共有・理解しながら、要所要所でグローバルの知見を活用していただいたこともポイントだったのではないでしょうか。
国井――はい。それも、短納期を実現しプロジェクトを成功に導く大きな力になっていたと思います。
――このプロジェクトのもう一つの大きな特徴に、コロナ禍だったことがあります。直接対面しての打ち合わせができず、フルリモートでのプロジェクト進行になりました。不安はありませんでしたか。
国井――もちろん心配事の一つではありましたが、かえって功を奏したという印象があります。オンラインツールを活用して、物理的に離れていても、皆同じ環境下で会話ができました。オンライン上であらかじめ資料を確認して、限られた時間の中で迅速に決定していく。そういうスタイルが、プロジェクトの初期から確立され、リモートだからこそ、無駄のない合理的な進行を実現できました。実は、日本TCSから最初のプレゼンテーションをリモートで受けた時に、「これは思ったよりもうまくいきそうだな」という確信がありました。最後まで徹底してもらったのが、「必ず全員に話を聞く」ということ。最終的には統合前の各社が、全てにおいて合意しなければならないわけですから、そこは丁寧に進める必要がありました。多少時間がかかるのはやむを得ないと考えていましたが、うまくファシリテートしてもらえ助かりました。
――最終的には、社員の方々へのトレーニングもリモートで行われましたね。
国井――何百人という単位ですから、トレーニング開始前は、経理などから不安の声も上がっていたんです。
――そうだったのですね。確かに、SAP導入においてはトレーニングが最後の課題かと思われます。本稼働はしたけれどうまく使えないというケースはよくあると言われています。今回、リモートによるトレーニングの内容はいかがでしたか。
国井――はい。実際に使う社員が使いこなせることは重要ですので、トレーニングにもかなり力を入れてもらいました。結果的には、リモートだったからこそトレーニングも効率的に進められ、スムーズにユーザー利用を開始できてよかったです。
――改めて、プロジェクトにおける当社の評価についてお聞かせいただけますか。
国井――これはお世辞ではなく、関係各所で大変好評です。会計実務やSAPを熟知した日本TCSのスペシャリストがプロジェクトをリードし、“Fit to Standard”という方針を守りながらも、日本企業特有の要件や業務プロセスはしっかり採り入れていくというノウハウは、高く評価しています。
――ありがとうございます。今回の3社間の統合、短納期、Fit to Standardといった要件に応じ、当社としては、プロジェクトの各局面で最適な人材を選び、チーム編成しました。
国井――第1フェーズの新会社への移行という目標は達成し、基幹システムの効率的な開発や維持管理の土台ができました。次のステップでは、無限に進化し続けるグローバルカンパニーにふさわしい基幹システムを目指して、まずは販売物流・調達・生産・原価計算のシステム統合に取り組みます。統合前の各社の“As-is”(現状)を調査した上で、どのような“To-be”(理想)をつくることができるか、要件定義に取り組んでいきます。日本TCSには、引き続きご協力いただいていますので、今後もさらなるサポートを期待しています。
――はい。第1フェーズを担ったメンバーを中心に、これまでの経験を基に中長期的な方針をしっかりと立て、ご期待に沿ったサポートをしてまいります。
国井――今後のシステム統合に当たってもSAPを中心に、と考えてはいますが、なかには対応できないものが出てくる可能性があり、ゼロからシステムを開発することも考えられます。その基盤や言語、ツールなども、数十年先を見据えた開発仕様に載せていかなければなりません。これらの選定などに関しても、日本TCSは課題認識が早くて正確で、的確に提案していただけるので信頼してお任せしています。
――ぜひこれからもよろしくお願いいたします。新会社であるMUCC様の発展にとって、これからが本番ですね。今後TCSへ特に期待するところをお聞かせください。
国井――当社が目指す姿に向けた、プロアクティブで中長期的な視野での提案を期待しています。また、国内はもとより、海外展開も含めたグローバルデリバリーネットワークの活用にも期待しています。さらに、DXとしての新たなビジネス発掘の提案など、当社のIT・DX・コンサル領域の戦略パートナーとして、SAPだけではなく、全般的な協力をお願いしたいと思っています。
――日本TCSは、グローバルの知見も含め、最先端のテクノロジー、プロジェクトに関する豊富なノウハウ、コンサルティング力を総動員して、基幹システム以外の分野でも全面的にサポートする体制を整えています。MUCC様のご期待に沿い、さらに次の世代、その次の世代の方々にも期待を超えて満足していただけるよう、パートナーとして新しい世界をつくっていくお手伝いをさせていただきたいと考えています。
1.宇部伊佐鉱山:セメントなどの原料となる石灰石の採掘を行う露天掘り鉱山。鉱区面積約1400haにも及ぶ国内有数の石灰石鉱山
2.UBE三菱セメント九州工場:福岡県に位置する1920 年創業の日本一の生産量を誇るセメント工場
3.宇部コールセンター:国内最大規模の石炭中継基地。世界各地から運ばれて来た石炭・石油コークスを備蓄保管し、日本全国のお客さまの元へ届ける
4.ダブルス・トレーラー:宇部と伊佐の工場を結ぶ30km超の「宇部伊佐専用道路」で、セメント原料等の輸送に活躍するトレーラー
設立:2021年4月14日
本社所在地:東京都千代田区
事業内容:国内・海外のセメント事業および生コンクリート事業、石灰石資源事業、環境エネルギー関連事業、建材事業その他関連事業など
※掲載内容は2023年7月時点のものです