株式会社豊田自動織機
既存のチャットボットをRAGとUI/UX改善で刷新
新たな価値創造を加速する「知の共有」基盤を再構築
トヨタグループの源流企業として知られ、2026年には創業100周年を迎える株式会社豊田自動織機。同社のITデジタル推進部では、「次なる百年の事業と働き方」をビジョンとして掲げ、最新のデジタル技術の活用を加速させています。その一環として、Azure OpenAI ServiceのGPT-4oを用いた既存のチャットボット「TICO太郎」の再構築に着手。アジャイル開発の高度なノウハウを持つ日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ(以下、日本TCS)の支援を通じて、わずか4カ月の開発期間でリリースされた「新TICO太郎」は、その後も継続的な機能強化を繰り返しながら、社員の高付加価値業務へのシフトを支えるAIアシスタントとして定着しつつあります。
実施前の課題 | 実施後の成果 |
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増加する利用者数と比例して積み上がる未着手の改善要望 | ・スクラム開発を取り入れ、リリースサイクルを約3カ月から1カ月へ短縮 ・使いやすいUIと機能強化により利用が促進し、月の問い合わせ回数が従来の約4倍(29,000件→110,000件)に増加 |
ChatGPTやRAGなど日々更新される最新技術のキャッチアップ | ・グローバルの知見も活用できる開発体制の確立 ・将来の変化に対応できるアーキテクチャの構築 |
背景・課題
1926年の創業以来、トヨタグループの源流企業として、繊維機械を出発点に、自動車、産業車両・物流ソリューション、エレクトロニクスと事業領域を拡大、車載電池など、新事業への絶え間ない挑戦を通じて成長を続ける豊田自動織機。2030年ビジョン「住みよい地球と豊かな生活、そして温かい社会づくり」への貢献に向けて、ITデジタル推進部は全社のDXを推進しています。ITデジタル推進部 先行開発室 室長の大橋健児氏は、その経緯を次のように説明します。
株式会社豊田自動織機
ITデジタル推進部
先行開発室 室長
大橋 健児 氏
「デジタル技術がビジネスに与える影響が急速に拡大する中、当社の成長に資する最新技術を先んじて目利きし、製造現場など事業部でいち早く活用することが競争力強化に欠かせません。そのためには、これまで後手に回りがちだったデジタル活用について、私たちから企画提案することでDXを加速させようと取り組んでいます」
ITデジタル推進部の活動の基軸となったのが2021年の組織変更によるデジタル技術に関するリソーセスの集約とロードマップ策定の取り組みでした。
「組織変更後、『次なる百年の事業と働き方』をビジョンに掲げ、さまざまな部門から集まったメンバー全員で、改めて何を成し遂げたいのかを議論しました。持続的な変革を当たり前とする風土と、先人たちの功績で今があるように、私たちも次の100年がよりよく働ける環境を整備したいという想いを確認し、一体感を醸成することができました」(大橋氏)
そのビジョン実現への重要な鍵の1つが2017年に開発に着手し、機能強化を続けてきたチャットボット「TICO太郎」です。
取り組み
将来的には直接部門やグループ企業への拡大、社内システムとの連携を通じて、横断的な知の共有を目指すTICO太郎。現状は間接部門を中心に展開し、問い合わせに対する情報提供のほか、社員のスケジュール確認や会議予約などの機能を提供します。
2023年4月のAzure OpenAI ServiceのGPT-3.5の実装により、精度の高い回答生成の実現など進化を遂げてきました。利用者数、利用頻度が急速に拡大したTICO太郎の新たな課題となったのが、社員から出される多くの改善要望への対応です。そこには、過去の問い合わせや回答の履歴が閲覧できないといった機能面での改善のほか、より使いやすいUIによるUXの向上などの要望が含まれていました。
豊田自動織機のビジネスにおける生成AIの役割について改めて議論を重ねたITデジタル推進部では、日本TCSを開発パートナーに、TICO太郎の機能や開発手法を一から見直す方針を2023年10月に決定します。日本TCSを選定した理由を次のように説明します。
「当社ではTCSさんと別のプロジェクトで成功体験があり、当社の担当役員や関係者がインドのTCSさんも視察しています。デジタル人材を確保することが困難な中、大手企業がTCSさんとの共同開発に取り組む様子を現地で目の当たりにしたことを聞き、インドの豊富な人材、TCSさんが持つグローバルの知見やユースケースに大きな期待を感じ、このプロジェクトにつながりました」(大橋氏)
ITデジタル推進部では、「新TICO太郎」の新たな機能要件と開発の優先度など、プロジェクトのロードマップ策定に着手。ITデジタル推進部 先行開発室 先行第2グループ グループ長の柴田顕次氏は、その過程を「まずは、高付加価値業務へのシフトを実現するためのAIアシスタントの役割とは何か、TICO太郎をどうしていきたいのかを、ユーザーの声も踏まえて描きました。その上で、インセプションデッキとして言語化し、TCSさんと共有、議論しながら徐々に固めていきました」と振り返ります。
日本TCSも、スクラム開発や、AIなどの最新技術を迅速に実装できるシステムアーキテクチャ、UI/UXのモダナイゼーションなど、その知見を活かしたさまざまな提案を行いました。
株式会社豊田自動織機
ITデジタル推進部
先行開発室 先行第2グループ グループ長
柴田 顕次 氏
“当社の担当役員や関係者がインド・TCSさんの視察で大手企業がTCSさんとの共同開発に取り組む様子を目の当たりにして、インドの豊富な人材、グローバルの知見やユースケースによる先端技術の活用支援に大きな期待を感じ、このプロジェクトにつながりました
株式会社豊田自動織機 大橋 健児 氏
効果
2023年11月に入って開発作業は本格化。2024年2月という短期リリースを目指し、初期段階の機能強化は「UI/UXの改善」「問い合わせ/回答履歴の閲覧機能」などに絞り込み、急ピッチで開発が進められました。ITデジタル推進部 先行開発室 先行第2グループの佐藤晃輔氏は、「生成AIなど技術の変化が非常に速い中、新しい技術も両社がそれぞれ知見を持ち寄り、お互いの検証内容を共有していくことで、スピード感のあるアイデア出しと議論を繰り返して開発を進めることができ、とても頼もしく感じました」と話します。
株式会社豊田自動織機
ITデジタル推進部
先行開発室 先行第2グループ
佐藤 晃輔 氏
日本TCSのテクニカルリードである古橋直樹も「新機能をいざ実装しようとしたら技術の更新があったこともありました。いつどのように進化するかが予測しにくいので、スピード感を持ってITデジタル推進部様と取り組んできました」と振り返ります。
また、日本TCSのデリバリー責任者である山脇一也は「今回の開発では早期リリースのため、マイクロソフトのアクセラレーターを活用するなどの工夫や、この先も継続して新しい技術を取り入れて発展し続ける基盤になるアーキテクチャへの刷新も行いました」と振り返ります。
開発は円滑に進み、GPT-4も実装した新TICO太郎は2024年2月に本稼働を開始。そこで特に評価が高かったのが、日本TCSのデザイナーが中心となって開発した新たなUIです。ITデジタル推進部 先行開発室 先行第2グループの寺田侑司氏は次のように評価します。
「新TICO太郎のUIは、日本TCSさんのデザイナーと率直かつ納得のいくまで議論をし、直感的で理解しやすい操作手順にできたことで、より利用してもらえるものになりました」
株式会社豊田自動織機
ITデジタル推進部
先行開発室 先行第2グループ
寺田 侑司 氏
新TICO太郎画面イメージ
このUI開発の経緯について、日本TCSのプロジェクトマネージャーである小杉博之は次のように明かします。
「当社からは、システムへの実装も理解しているデザイナーが参画しました。皆さんが使い慣れているデバイスと違和感のない操作感や、コーポレートアイデンティティの反映などのこだわりも、UI/UXへのご評価につながったと思います」
その後も社内の情報に関する回答を高い精度で生成するRAG(Retrieval-Augmented Generation)の実装や、ユーザー自身が資料のアップロードと公開範囲指定を行い、独自のAIチャットボットを作成できる仕組みの構築、検索時間を短縮するためのストリーミングの高速化など、継続的な機能強化が行われています。最新のGPT-4oを実装した2024年6月時点の新TICO太郎は前年同月と比べ、問い合わせ件数は約29,000件から4倍近い約110,000件にまで達しています。「利用頻度が大きく増えたのは、ユーザーの声に基づいた機能とわかりやすく使いやすいUIを提供したことで、利用を前向きに捉えて使ってくれているためではないかと考えています」(佐藤氏)
今後の展望
今後は、他システムとの連携、直接部門やグループ企業への展開、スマートフォンアプリの開発など、技術革新も捉えながらAIのさらなる活用を検討しています。
「TICO太郎が目指すのは、すべての社員のバディとして頼れるAIアシスタントになることです。すでにグループ企業からも新TICO太郎を利用したいという要望が寄せられています。日本TCSさんとはチームとしてよい関係が築けており、今後も高付加価値業務へのシフトを加速させる強力なご支援を期待しています」(大橋氏)
豊田自動織機の次なる百年を支える新たな価値創造への取り組みに、日本TCSはこれからも最新のデジタルの知見で共に走り続けます。
設立:1926年11月
本社所在地 :愛知県刈谷市
資本金:804億円(2024年3月31日現在)
売上高:38,332億円(2024年3月期)
事業内容:繊維機械、産業車両、自動車・自動車部品の製造・販売
URL:https://www.toyota-shokki.co.jp
※本事例の内容は2024年9月現在のものです。
※記載されている会社名・サービス名・製品名などは、各社の商標または登録商標です。