TOYO TIRE 株式会社
2020 年 7 月、『トラック・バス用タイヤの使用(摩耗)状態推定モデル』を構築。タイヤメーカーならではの、次世代モビリティ社会に対応するメンテナンス・ソリューションの構築に取り組む。
事業を通じてモビリティ社会を支え、より豊かな社会の創造を目指す TOYO TIRE 株式会社(以下、TOYO TIRE)様。たゆまぬ技術革新によって、日本国内はもちろん海外でも高い評価を受けています。2020 年 8 月には創業 75 周年迎え、この節目の年を100 周年に向けた「新しい道づくりの年」と位置付け、新たな企業ステージへのさまざまなチャレンジを進めています。
今、自動車業界は 100 年に 1 度の大変革期にあるといわれる中、TOYO TIRE 様では、次世代モビリティ社会においてタイヤに求められる付加価値とは何かを、さまざまな観点から検討を重ねてきました。
執行役員 中央研究所長の下村 哲生様は次のように語ります。
「検討を始めたのは 2018 年で、生産から廃棄に至るまで、タイヤのライフサイクルに関わるサプライチェーン全域において、当社ならではの強みを発揮し、お客様や社会の課題解決に貢献したいという強い思いを持って取り組みました。そのためには、唯一、路面と接点のあるタイヤから情報を収集し、ライフサイクル全体にわたってさまざまなモノ・コト・データをつなげ、得られたデータを活用して、需給バランスと価格を最適化するビジネスモデルの構築が必要だと考えました」
こうして議論を進める中、TOYO TIRE 様 は 2020 年 2 月、新たにデジタルイノベーション推進本部を起ち上げ、全社としてのデジタル化への取り組みが本格化しました。7 月に発表した『トラック・バス用 タイヤの使用(摩耗)状態推定モデル』は、まさにデジタル化の第一歩であり、技術と営業のデータを連携させ、お客様や社会の課題解決への貢献に向けた TOYO TIRE 様の新たな一歩となるものでした。
モデル構築のリーダーとして、検討開始当初から参画した中央研究所 研究企画室 企画室長の中島 佐知子様は、「検討開始当初は、下村と二人で手探りの中でのスタートでしたが、全社からキーマンに参画いただきつくった『摩耗診断プロジェクト』として世の中の動きや、当社の未来の在り姿を議論し、それがあったからこそ今回のモデル構築につながったのだと思います。また、このモデルにより、これまでアナログでつないでいた顧客データを、デジタルデータとして技術や生産と結び付けることが可能となり、サプライチェーン全体の最適化につなげることができると考えています」と、モデル構築の意義を語ります。
トラック・バス用タイヤ 情報自動集積システム
『トラック・バス用タイヤの使用(摩耗)状態推定モデル』構築を進める中で、TOYO TIRE 様が最も重視したのが、タイヤの使用(摩耗)状態を推定するモデルとシステム構築を実現するために、いかにしてタイヤメーカーならではの知見を全社から結集し、蓄積するかでした。
「プロジェクトのメンバーは、タイヤのことを熟知しているわけではなく、それは新しいことを考えられるという強みである一方、どうしても深い知識も必要になることから、社内の 7 部門のキーパーソンの協力を得て、お客様のデータを活用し、 TOYO TIRE 一体となった情報共有化を図れたことが最大のポイントでした」
と中島様は振り返ります。
プロジェクトメンバーの一人で、設計を担当していた、中央研究所 研究企画室 企画グループ長の石坂 信吉様は、お客様との接点が非常に強く「お客様はもちろん、お客様との窓口である販社の方と信頼関係を構築し、いかにスムーズにデータの収集を可能にするかは簡単なことではありません。中には面倒くさいと感じる方もいるでしょうが、それまでの経験を生かし、最終的にはお客様の困り事の解決となることを理解してもらうよう努めました」とスタート当初の苦労を話します。
プロジェクトにおいてデータ関連を担当する中央研究所 研究企画室 企画室長補佐の 土本 壮至様は、この取り組みを進める中で大切にしていることを次のように語ります。「お客様にとって何が嬉しいのか、それはお客様によってそれぞれ思いが違います。だからこそ、それらを局所的ではなくて、包括的に捉え、ビジネス展開にもつながるような、少し先を見越した考えを持つように心掛けています」。
また、物流企業でのタイヤ調達の経験を持つ、中央研究所 研究企画室 企画室長 補佐の目黒 聡様は、TOYO TIRE 様の使用(摩耗)状態推定モデル構築の話を聞き、タイヤのメンテナンスは将来的により重要性が高まると感じ、活躍の場を TOYO TIRE 様へと移したといいます。
「調達する側として感じていた課題が多くあり、使用(摩耗)状態推定モデルの構築は非常に先進的で、その課題解決につながるだけでなく、社会的にも意義ある取り組みだと感じ参画を決意しました」。
こうしてスタートしたプロジェクトは、「お客様は本当に何を望んでいるか、潜在的にどんなことを考えているのか、これをしっかりとキャッチしていこう」という下村様からの明確なミッションの下、メンバー 一丸となって取り組んでいきました。
TOYO TIRE 様では、今回のプロジェクトを進める中で幾つかの課題に直面したといいます。それは、石坂様のお話しにもあったお客様データの取得に加え、データを活用するための整理、データ検証、ビジネスモデルの検討などでした。
日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ(日本TCS)は、パートナーとしてこうした課題解決に取り組みました。下村様は、「デジタルトランスフォーメーション(DX)に関するグローバルな知見、経験が豊富な上、単なるシステム構築の協業にとどまらず、アイデア、現場対応、ビジネスモデルなど、ワンストップで一緒に取り組んでいける点を高く評価しました」と選定の理由を語ります。
日本TCSは、タタコンサルタンシーサービシズ(TCS)の IoT ソリューション「TCS DigiFleet」で、データの取得、蓄積、可視化を実現する各アプリケーションの提供などを行い、ともにプロジェクトに取り組みました。そして 7 月、『トラック・バス用タイヤ の使用(摩耗)状態推定モデル』を発表されました。
このモデルは、トラックやバスなどの運輸車両のホイールに装着したセンサーによって、空気圧や内部温度といったタイヤの状態をデータとして自動収集し、また、全地球測位システム(GPS)によって得られる位置情報や車両の加速度情報などと合わせて、リアルタイムでクラウドに蓄積し、タイヤの摩耗状態をデジタル環境の中で推定する独自のものです。
トラックやバスで利用されるタイヤは、1 ~ 3 カ月ごとに、人が計測機器を用いて 1 本ずつタイヤの溝の深さを測定、摩耗の点検をされていますが、この推定モデルにより適正にタイヤ使用(摩耗)状態を管理したり、メンテナンス業務に効率的であることがわかりました。
「これは、個別の車両運行状況によって異なるタイヤへの負荷や経年変化について、そ の推定確度を高めるのに必要な情報を、適切かつリアルタイムに収集、蓄積されるようシステム化したものです。当社は、この生きたデータをお客様の車両メンテナンス管理に活用していくという構想を、今後さらに加速させていきます」
と下村 様。
「すでに多くのお客様からお問合せをいただいており、導入可能性について検討を進めているほか、自動車メーカー様の先進的な取り組みとの協業なども模索しています。また、北米や中国など海外からのお問合せも多くいただいています」。
そう中島様が話すように、このシステムに対する期待の高さはもちろん、TOYO TIRE 様のデジタルを活用した変革に対する大きな期待が寄せられています。
TCS Digi Fleet イメージ
『トラック・バス用タイヤの使用(摩耗)状態推定モデル』構築をきっかけの一つとし、さらなる飛躍を実現するためにプロジェクトメンバーはこのシステムの高 度化に取り組んでいます。
目黒様は、「お客様からいただいたデータを生かして、私たちがより効果的なシステムへと進化させ、さらにお客様からデータをいただくというサイクルを確立し、より良いタイ ヤを使っていただけるようにしていきたいと思います」と話します。
また、今回のプロジェクトは社内への効果も大きく、土本様は「このプロジェクトを通じて、社内連携の土台ができたと感じています。今後は、さらに部署間の垣根を低くし、全社の総力を結集しやすい風土をさらに強化していければと考えています」と語ります。
石坂様も「研究所発信のテーマで事業化に直結したといったケースは、これまであまりありませんでした。このプロジェクトで大きな成果を挙げ、同じようなケースがどんどん出てくることを期待しています」と、社内の変化について語ってくれました。
中島様もこのプロジェクトを契機に会社をさらに変革させていきたいといいます。「これまでは、全社をまとめて新しいことをスピーディーに進めるような部署がありませんでしたが、このプロジェクトを進化させ、新たなビジネスを進めていけるような組織をつくれれば、さらなる成長に向けて可能性がさらに高まるのではないかと考えています」。
TOYO TIRE 様では、今回の使用(摩耗)状態推定モデルに加え、タイヤへのセンサーの埋め込みや、過去のデータに基づいた設計の最適化、工場の IoT 化など、さまざまな取り組みを進めています。
「全社の DX をさらに進めていくためには、生産、技術、営業のリンクを一層強化していく必要があります。そして、お客様からのデータと技術のデータをリンクさせていかなければなりません。その入り口となるのが、TCS DigiFleet によりリアルタイムデータを生かし、使用(摩耗)状態推定モデルを高度に活用することです。お客様から上がってくるデータに基づいて全てをリンクさせ、会社全体を最適化していきたいと思います。それがお客様の価値向上につながると確信しています。また、社外との協業により、新しい視点でビジネスモデルを構築していくことも不可欠です。引き続き、日本TCSには新たな企業ステージに向けた成長戦略を推進するイノベーションパートナーとして期待しています」(下村様)。
日本TCSは、グローバルな知見やノウハウを生かし、TOYO TIRE 様の DX をご支援していきます。
※写真撮影に当たっては、新型コロナウイルス感染・感染拡大防止に十分配慮し、撮影時のみ短時間マスクを外し撮影を行いました。
下村 哲生 様
TOYO TIRE 株式会社
執行役員 中央研究所長
本部長
中島 佐知子 様
TOYO TIRE 株式会社
中央研究所 研究企画室
企画室長
石坂 信吉 様
TOYO TIRE 株式会社
中央研究所 研究企画室
企画グループ長
土本 壮至 様
TOYO TIRE 株式会社
中央研究所 研究企画室
企画室長補佐
目黒 聡 様
TOYO TIRE 株式会社
中央研究所 研究企画室
企画室長補佐
※掲載内容は2022年11月時点のものです