目まぐるしい変化を続ける現在の世界。その中で競争するなら、せっかく得られたIoTデータを孤立したシステムや組織の中にとどめておくべきではありません。データを組織全体へシームレスに浸透させ、十分な情報に基づいてスピーディな意思決定に役立てることが必要です。
そこで重要となるのが、コネクテッド・デジタル・エンタープライズ(Connected Digital Enterprise: CDE)という考え方です。CDEにおいては、企業内のさまざまな部署がつながり合い、自社の製品やプロセス、業績の状況をリアルタイムでありのままに把握できます。これを実現するには、IoT を一直線につなげるだけでなく、ありとあらゆる方向へ縦横無尽につながなければなりません。CDE とはまた、単にデータを取り出せるだけでなく、データを組み合わせ、分析し、従来とは異なる方法で課題を理解、解決できることも意味します。
CDE の一番の目的は、企業が抱えるビジネス課題 ―― 例えばプロダクトデザインの向上、製造の効率化、品質問題の改善、顧客の要望への対応など ―― について、「Single Version of the Truth( 唯一の真実)」を手に入れることです。そのためには、具体的にどのような取り組みが必要となるのでしょうか?
まず、プラットフォームやシステム、アプリケーションがつながり、相互に通信できる環境が必要です。それだけでなく、センサーやそのほかのIoT 技術により、自社の需要やプロセス、アセットの状態、納入、製品性能などの情報をリアルタイムで確認できなければなりません。またデータを標準化し、自社のバリューチェーン上に存在するほかのデータと連携させることが不可欠です。そうすることで、ビジネス課題の実情に即した実用的なインサイトを得ることができます。
CDEの実現によりビジネスはどのように変わり得るのか、その可能性を模索し始めた企業の例を幾つかご紹介しましょう。
ある世界的な自動車メーカーは、自社が製造した自動車から診断情報を収集することで、製品の性能を監視し、不具合に対して先回りして対応することに成功しています。
データはコネクテッドカーからの定期的な収集や、コネクテッドでない車両がディーラーへ修理点検に持ち込まれた際に収集します。データからは不具合やその発生頻度の情報を得ることができるため、繰り返し発生する問題の特定や解決に利用できます。しかしCDEの真の実力は、診断データをエンジニアリングデータや生産データと組み合わせることで発揮されます。こうした組み合わせにより、発生した問題がどの生産工場に関わるものか、さらにはどのサプライヤーのどの部品に関係するものかまで突き止めることができるようになりました。現在、この自動車メーカーでは、診断データを車両の設計向上に役立てています。
空調設備の製造とアフターサービスを行うインドの大手企業もまた、初期からCDEに取り組み、成果を手にした一社です。同社は最近、IoTを活用したシステムを導入し、ショッピングモールから競技場まで1,000を超える大型施設で使用される空調機器の監視に役立てています。
データの収集と機器の遠隔監視は一元管理され、機器のリアルタイムな状態把握から、運転異常の特定、故障予測までを一カ所で行うことができます。IoTシステムの導入により、同社は空調機器が故障する前に整備を実施できるようになりました。また、整備士は現場に到着する前に問題の状況を知ることが可能になり、メンテナンスにかかる時間とコストの低減にもつながっています。その結果、機器の可用性が高まり、顧客満足度も向上しました。さらにこの企業では、手に入れたこの遠隔監視能力を活用してサービスの幅を広げ、新たなビジネスモデルの構築に取り組んでいます。
IoTを活用する技術的なシステムをBusiness4.0™における競争に適したものへ進化させるためには、CDEへの取り組みは欠かせません。一方で、残念ながら「CDE実現への道のりはこうあるべき」という具体的な青写真は存在しません。しかし、どの企業にも共通して当てはまるルールは幾つかあります。
1.道筋を明確にすること
2.関係者を巻き込むこと
3.ループを完結させること
これらの原則に従えば、CDE実現の確率は高まるでしょう。また、CDE環境でしか成し遂げられない劇的なデジタルトランスフォーメーションの実現も容易になります。そのようなトランスフォーメーションの一つに「デジタルツイン※1」があります。
製品やプロセス、あるいは工場全体をデジタル上で再現するというこの概念は、今、大きな注目を集めています。このデジタルツインの価値やユースケースについては、日本タタ・コンサルタンシー・サービシズのウェブサイトでも随時、ご紹介してまいります。そちらもぜひご覧ください。
※1 現実世界で起きている事象をあたかも「双子(Twin)」のようにデジタル環境で忠実・精緻に再現し、従来培ってきたものづくりや、社会インフラなどの知見を最大限に活用し、高度なシミュレーションを行うことで、過去の事象の再現や将来予測に活用する技術。
※掲載内容は2019年1月時点のものです。