新規、リピート両方の取引において、顧客から見たブランドイメージは重要な要素です。昨今の厳しい競争環境においては、製品やサービスに大きな差別化を実現することは難しくなっており、自社ブランドに対する顧客の信頼を構築することは容易ではありません。こうした環境において、企業は何ができるでしょうか。その答えは、顧客がブランドとのインタラクションの過程で体感する“エクスペリエンス”にあります。このホワイトペーパーでは、カスタマーエクスペリエンス(Customer Experience。 以下、CX)の重要性と、CXに取り組むことによる差別化の実現について説明します。本ペーパーにより、CXをデザインするにあたっての検討要素、ブランドイメージ向上のための手法、顧客をより深く理解しCX全体をデザインするためのテクノロジーについて理解いただけます。貴社に最適なツールを選定することも重要ですので、ツール選びの主要ポイントもカバーしています。また、CXの取り組みを成功させるための秘訣と、最高のCXを提供するには組織内での幅広い連携が必要である理由をご紹介します。
幅広い機能やサービスを提供することで顧客ニーズに応えることは、多くの企業において売上増のための定番の戦略でした。一方、他社ブランドへの乗り換えは企業共通の悩みであり続けています。これは、製品の機能やサービスの幅広さと顧客ロイヤルティの相関関係が低下し続けているという、我々の仮説を裏付けるものです。顧客が購買行為において経験する、ブランド(もしくは企業)とのインタラクションが顧客ロイヤルティに影響しますが、現在の経済活動においては、こうしたインタラクションの多くはデジタルに関連しています。良いカスタマーエクスペリエンス(CX)は顧客満足を高め、売上増への重要な要素となるのです。
直接的関連性はありませんが、CX先進企業が年17%の成長を実現した一方、CX出遅れ企業では3%に留まったとの調査があります。*¹ 両者の違いは、顧客の内在的な行動をどれだけ理解できたか、また、期待と実際の顧客体験のギャップをどれだけ埋められたか、にあります。さらに、CX先進企業には、求める結果から逆算してその達成のために何が必要かをデザインするような、CXをリバースエンジニアリングする力もありました。
本質的に売上成長は、顧客満足、顧客からの支持、製品特性の3つからもたらされます。製品特性が差別化を生み出せる余地が小さくなっている一方、顧客ライフサイクル全体を通じた質の高いCXによる顧客満足・顧客からの支持の向上は、顧客との長期的な関係性構築につながり、新規顧客獲得スピードの早期化にもつながり、大きな売上成長が実現されるのです。
素晴らしいカスタマーエクスペリエンスの構成要素は何でしょうか。
デジタル技術の発展により、オフラインとオンラインの境界を曖昧にすることも消し去ることもできるようになってきました。また、顧客が「いつ」「何を」求めるかを正確に予想することができるようになり、これに応えることで素晴らしい経験を届けることも可能になっています。一方、様々なチャネルに分散されたインタラクションはコスト増の要因になり、さらには劣悪なCXとなってしまうリスクにもなります。整備されたデータをベースとした、オムニチャネルでのインタラクションをシームレスにナビゲートする、一貫した顧客とのタッチポイントは、顧客との関わりを次のレベルに導きます。一貫性を保ちつつ顧客と密接に関与するオムニチャネル体験を提供するためには、企業としては様々なチャネルにまたがるインタラクションを一つの統一されたカスタマージャーニーとして捉える必要があります。さらに、セルフサービスの選択肢を提供することで、顧客は自力で対応できる力を獲得でき、複数のインタラクションチャネルを使わずにシンプルに対応できるようになります。これにより、前に述べたような成果をさらに拡大できます。つまり、セルフサービス対応を実現するためのIT投資は、データ統合、コールセンター、代理店等のコストを下げつつ、満足度を高める有効な投資となるのです。これらの全ては顧客の行動や好みに関する深い理解につながり、これをベースとして個々人に向けた体験を提供することができるようになり、CXの質が高まっていきます。
様々なCXの構成要素は相互に関わり合い、素晴らしいCXにつながっていきます。(図2)
多くの企業は長年に渡り、データテクノロジー、UI/UXアプリケーション、クラウド技術に対して場当たり的に投資を続けており、結果として、管理の難しい、モザイク状のIT環境に陥っています。モダンなカスタマーエクスペリエンス・プラットフォーム(以下、CEP)は、シンプルなポイント&クリックなインターフェースで、ジャーニーマッピング、分析エンジン、データモデリング、ダッシュボード等の機能を、統合的に提供します。これにより、顧客の期待に現状よりもはるかに低いコストで迅速に対応できます。CEPは、複数チャネルからのデータ統合や、一貫したブランド体験をシングルログインで提供するための基盤を提供します。CEPは企業がカスタマージャーニーで生じるインタラクション全体を把握できるように支援するツールであり、その重要性は言い尽くせないほどです。
「顧客第一」アプローチがTCSの多くのクライアントにおけるデジタル対応の再設計において使われている中、顧客の感情、タッチポイント、行動、秘められた期待等を捉え、視覚化することを任務とする、カスタマーエバンジェリストの役割が注目を集めつつあることは興味深いトレンドです。カスタマーエバンジェリストは、関係するステークホルダーをつなげ、彼らにとって関係のある様々な事象を捉え、カスタマージャーニーに散らばる点をつなげ、統一感のある体験を提供するために必要な基盤を、意義のあるコンテキストに整理して提供します。ジャーニーマップツールを活用して現実のペルソナを補完していくことは、CEPが果たす役割を定義するにあたって広まりつつある考え方です。ジャーニーマップ、ペイン・ゲインマップ、ペルソナマップといった視覚化ツールは、CEPにうまく組み込むことで様々なチャネルに渡って最適化されます。
以下の図3は、ペルソナワークショップの実施結果のサンプルです。顧客感情、ペインポイント、希望等がカスタマージャーニーマップ上で視覚化されています。
カスタマージャーニーマップはペルソナに関わるインサイトを多く発見することができるツールですが、設定したペルソナから実際にインサイトを引き出すのは難しい作業です。デザイン思考を活用することにより、プロセス、ペインポイント、要望等を包括的に、かつプロダクトの詳細を定義するはるかに前に、把握することができます。このアプローチは、明白になっているニーズを把握するだけでなく、潜在的なニーズを把握することに役立ち、これによりパーソナライズされた体験を提供できるようになります。顧客重視を標榜するのであれば、ターゲットとするペルソナが求めるものを把握するため、また、不十分な対応に終わってしまうリスクや社内からの抵抗といった問題に対応するために、今以上の時間を投資すべきです。それにより企業は投資を超えるリターンを得られます。
顧客が成し遂げようとするジョブを把握する
「パーパス(企業の存在目的)」は、CXをデザインするにあたって見逃せない重要点な側面です。クレイトン・クリステンセン教授が語る通り、顧客は自らが成し遂げようとするジョブを遂行するために適切なプロダクトを選ぶものです。製品・サービスのイノベーションを定着させるための深いインサイトは、パーパスと顧客の信条との密接な結びつきから生じるものであり、こういったものはデザインされた体験に反映されなければなりません。
共に経験を構築する
顧客中心を実践している企業を支援してきたTCSの経験から言えるのは、企業の顧客を、顧客自身のジャーニーを設計するためのプロセスに巻き込むことが、製品・サービスの所有期間全体を通じたブランドロイヤルティに非常に高いインパクトを与えるということです。初期的なデザインから製造に至るまでを顧客とコラボレーションすることを重視する、我々がカスタマー・エクスペリエンス・センター(以下、CEC)と呼ぶ取り組みを実施している企業はまだ少ないです。我々の経験からは、実在する生き生きとしたペルソナとともにジャーニーワークショップを実施し、CECを通じてUXを実現・改善していくことは、真の顧客中心経験を提供するためには不可欠なことです。
全体の整合性は大規模プロジェクトでは見落とされがち
閉じられたサイロでデザインされたインタラクションでは、実際に提供された際にはうまくいかず、UX全体を損ないます。UXデザインに顧客を巻き込むことは後回しになりがちです。こうした事象は、伝統的なソフトウェア開発において顕著です。全体のジャーニーが機能別アプリケーションのサイロに分割された結果、CXは劣悪なものとなり、顧客は困惑し、失望します。そして顧客ロイヤルティや顧客支持の低下につながるのです。
要件定義が完了した段階では、市場にあふれる多くの製品の中から適切なCEPプラットフォームを選定することが重要となります。貴社にとって最適なプラットフォームを選定するにあたり、重要なポイントは以下です。
これまでに述べた内容を全て短期間でカバーすることはとても無理だと感じたかもしれません。ある調査では、CXの取り組みの93%は失敗し、そのうちの75%は実施フェーズで失敗しています*²。
CXの取り組みを成功させるための助けになるポイントを以下に紹介します。
現実はまだそうなっていませんが、我々は、CXは営業部門やマーケティング部門だけの問題ではなく、企業全体として取り組むべきものだと捉えています。従い、CXジャーニーを設計するにあたっては、営業・マーケティング部門が中心となりつつ、全てのビジネス機能がそれぞれ重要な役割を果たすことが不可欠です。しかしながら、ほとんどの企業ではCXを推進するための複数組織をまたがる取り組みは取られていません。CXの失敗例に共通して見られる事項の1つは、システム・オブ・レコードとシステム・オブ・エンゲージメントの連携不足であり、これは多くの場合、顧客の失望につながります。システム・オブ・レコードとシステム・オブ・エンゲージメントが相互に連携し、補い合うことでより素晴らしい顧客体験につなげることができます。
*1 Forrester Report(英語)
*2 CustomerThink Corp., an independent research and publishing firm(英語)
※掲載内容は2021年10月時点のものです