最近よくAIやIoTという言葉を耳にしますが、私たちが生きる現在の社会は、AIやIoT(Internet of Things)により生産が自立化する「第4次産業革命の時代」と呼ばれています。また、日本政府はAIやIoT、ビッグデータなどの先端技術を産業や生活に取り入れた超スマート社会「Society 5.0」を提唱しています。
Society 5.0は、サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させた新たな価値を生み出すシステムにより、これまで課題であった国内外のさまざまな格差や不平等の是正、環境問題や食糧危機といった社会的課題を解決しつつ、経済の更なる発展を目指すものです。
資料:内閣府HP(https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/index.html)より引用 |
Society 5.0のような超スマート社会の実現に向けて重要なのは人材の育成ですが、文部科学省(以下、文科省)はSociety 5.0に向けた新時代の学びとして“学校3.0”を2018年6月に発表しました。これによると、AIやIoTに取って代わることのできない人間ならではの能力として、①文章や情報を正確に読み解き対話する力、②科学的に思考・吟味し活用する力、③価値を見つけ出す感性と力、④好奇心・探求心、の育成を重視していることが分かります。
またこの“学校3.0”の構想がこれまでと大きく異なるのは、幼稚園から高校までの学年別の「K-12教育」から、能力レベルの「K-16プログラム」を新たに打ち出していることです。K-16プログラムでは、「個人が学校に合わせて学ぶのではなく、学校が個人の資質・能力に合わせた学びを個別に提供すること」、また学びのプログラムは、「学校だけではなく大学や企業などから提供されるプログラムを選択して学べること」などが特徴として挙げられています。
このように日本の教育は、学校1.0の“勉強の時代”、学校2.0の“学習の時代”、そして学校3.0の“学びの時代”へと、時代の影響を受け大きな転機を迎えようとしています。
図:Society 5.0 に向けた学校3.0 |
学校3.0の構想を実現するために、現在行われているのがいわゆる「教育改革2020」と呼ばれるものです。「生きる力、学びのその先へ」をキャッチコピーに現在進行形で進められていますが、具体的には幼稚園から高校までの学習指導要領が改訂され、小学校3年生から外国語活動が正式に始まり、プログラミング教育が新たに導入されるなど、大型のカリキュラム改正があります。また大学入試も大学入学共通テストという新たなテストが導入される予定で、記述問題や英語スピーキングテストなど“アウトプット型の能力”が問われるテストへと変わります。
この日本の教育改革2020に影響を与えているのが、グローバル標準の教育や評価方法です。例えば2020年の大学入学共通テストでは、英語4技能の評価となりますが、その評価方法にEUから生まれた「外国語の学習・教授・評価のためのヨーロッパ言語共通参照枠(Common European Framework of Reference for Languages: Learning, teaching, assessment:CEFR)」というCando式評価方法が用いられることになりました。EUはご存知のように多種多様な国家と民族で構成されているため、このような共通の評価の枠組みを構築することでEU圏内の人の行き来を容易にし、特にEU圏内の教育や就業において大きなメリットがあります。
■世界標準の学びと評価(知識・スキル・コンピテンシー)が求められる時代へ
また2020年より小学校にプログラミング教育が導入されますが、これは米国のSTEM教育が影響を与えています。米国の子どもたちのPISA(OECDが実施する世界規模の学習到達度調査)の結果が悪いことから、オバマ政権時代に科学(S)、技術(T)、工学(E)、数学(M)の分野の教育を、国を挙げて取組んだことから、世界中でSTEM教育として有名になりました。STEM教育の特徴は、それぞれの科目の知識やスキルを活かし、科目を横断した発展的な学びを行うことです。例えばPBLと呼ばれる課題解決型学習などが挙げられます。
日本の教育の世界的位置づけを見てみると、OECDのPISA調査では、読解力・科学的リテラシー・数学的リテラシーのいずれも、世界トップレベルであることが分かります。
資料:国立教育政策研究所 「OECD生徒の学習到達度調査(PISA2015)のポイント」 (http://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/pdf/2015/01_point.pdf)より引用 |
OECDのPISA調査は3年ごとに行われますが、2015年には協同問題解決能力の調査が追加され、日本の子ども達の協同問題解決能力は、世界トップであることが分かりました。
資料:国立教育政策研究所「PISA2015年協同問題解決能力調査―国際結果の概要―」 (https://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/pdf/pisa2015cps_20171121_report.pdf )より引用 |
一方PISAの2018年調査では、グローバルコンピテンスの調査が新たに追加されましたが、文科省はこの調査を見送っています。グローバルコンピテンスとは、「国際的な場で必要となる能力・力量」であり、①グローバルコミュニケーション力、②文化横断的・相互的な物の考え方、③グローバルな思考・多様性の尊重・シチズンシップ、④地域的課題とグローバルな課題との関係判断、を測るものとされています。内容は、環境問題・貧困・移民問題など、グローバルな課題に対しての意識を問う質問となっており、解答のハードルが高いように思えます。文科省がグローバルコンピテンスの調査を見送ったことは、現在の日本の教育の課題を象徴しているように思えます。
また現在進められている教育改革の中で、特に課題なのはプログラミング教育ではないでしょうか。文科省は盛んに「プログラミング教育はコーディングではなく、プログラミング的思考を養う教育」と説明していますが、流れはコーディングに向かっているように思えます。
TCSは米国でSTEM教育を推進していますが、その中でベースとしている考え方は「Computational Thinking(計算論的思考)」です。文科省のプログラミング教育の定義にも、この計算論的思考を踏まえ定義化したことが書かれてあります。
(文科省:プログラミング教育議論のまとめ)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/122/attach/1372525.htm
計算論的思考は7つの段階を踏んだ思考で、ITに限らず何にでも応用が利く「課題解決型の思考方法」ですが、日本のプログラミング教育は特に最後の「アルゴリズムを開発する」というフェーズに特化しているように見え、それに至るまでの6つのプロセスが抜け落ちてしまっているように思えます。
図:計算論的思考 |
Society 5.0の新時代の学びに必要な“人間ならではの能力”として文科省が挙げているのが、①文章や情報を正確に読み解き対話する力、②科学的に思考・吟味し活用する力、③価値を見つけ出す感性と力、④好奇心・探求心、の育成であることは前述しましたが、これらを育成する方法の一つが、この計算論的思考による課題解決型学習ではないでしょうか。
また一方、TCSが米国でSTEM教育を推進する上で課題となっていたのは教師の育成ですが、2020年のプログラミング教育開始を目前にした日本も、同様の課題を抱えていることが明らかになってきています。新しい時代の学びが必要なのは、子ども達だけでなく大人もしかりではないでしょうか。高度情報化時代の到来と共に、学びも長期的かつ高度になっているため、学び続けようとする個人の意識を醸成することはもちろん、グローバル標準の学びや評価の提供方法、学習環境の整備なども、公教育外であるノンフォーマル教育にも求められる時代になっています。
TCSは、グローバルIT企業として教育分野におけるグローバルの知見を有しています。インドに1,782か所の試験センターを設置し、さらに包括的なソリューション「TCS iON Education」を展開しています。インドで最大規模と言われるインド国鉄の採用試験も、TCSの設備やソリューションを用いて実施されています。
また、日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ(日本TCS)も、日本において40年以上にわたり共通一次試験から大学入試センター試験、国立・私立大学の入学試験、国家試験、学力調査、大手英語試験等の実施を、長年支えてきた実績があります。2019年にはTCSのスピーキング試験専用タブレット端末「PAPER(ペーパー)」が高宮学園 代々木ゼミナールに採用されています。インターネット環境の無い教室での試験実施や遠隔採点等にTCS iON Educationを組み合わせ、強固なセキュリティ環境でコンピュータベースドテスト(CBT)が行えます。
また、現在日本TCSでは、文科省の日本型教育の海外展開事業(EDU-Port)を実施しています。EDU-Portは、日本の教育の強みを海外に輸出し、また海外からの教育的知見を輸入することで、日本の教育の国際化を目指す活動です。新時代を迎えるための学びを実現するために、日本TCSは日本の教育改革の伴走者として応援していきます。
文教グループ:
大学入試センター試験をはじめとする日本のハイステークテストを40年に亘り実施してきた、採点のスペシャリストです。TCSが生み出したクラウド型の総合教育ソリューション「iON」とのハイブリッドなコラボレーションにより、今年度より英語スピーキングテストの日本でのご提供を開始しました。
詳しくはこちらをご覧ください。
https://www.tcs.com/jp-ja/Press_Release_2019/0228_iON_Education
EDU-Port:
2017年に開始された文科省の日本型教育の海外展開事業。日本TCSはインド事業「インド型教育訓練と日本型教育訓練の融合と、日印の企業ニーズに即した人財開発」のコンソーシアムメンバーとして2018年度より参画。インド企業及び現地日系企業の人財ニーズを充足する人財育成コンテンツを開発し、育成した人財が現地日系企業等に就職するスキームをPhygitalモデル※で構築することで、インドにおける労働力不足解消を実現し、日印両国の信頼関係をより強固なものへと昇華させることを目的として、学研・大原学園・奈良女子大学・JMC・勝英自動車学校と共に取り組んでいます。
詳しくはこちらをご覧ください。
https://www.eduport.mext.go.jp/summary/pilot.html
※Physical(教室)とDigital(デジタル)を組み合わせた教育モデル
iON:
iONはTCSのクラウド型総合教育ソリューションで、学生募集のCRMやWEB出願からはじまり、学務管理のCMS、経営管理のERPといった基幹システム、次世代の学習や試験を実現させるLMSやCBT、またユニークな教育コンテンツのマーケットプレイスDigital Learning Hubなど、教育に関わるあらゆるシステムを有しています。
各システムの詳しい説明やユースケースはこちらをご覧ください。
(日本語)https://www.tcs.com/jp-ja/iON
(英語) https://www.tcsion.com/dotcom/TCSSMB/education/education.html
大渕みほ子 日本TCS文教グループ・エバンジェリスト |
写真中央の人物が大渕
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国内でMBA取得後、教育機関や国際NGOで教育支援の経験を積み、2018年4月より現職。長年の途上国での教育活動の経験により、ITを使った教育改革や社会的課題解決の可能性を強く実感し、実現を目指している。現在EDU-Portインド事業推進メンバーとして活動中。 |
※掲載内容は2019年4月時点のものです。
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