通信事業者(CSP)は従来のビジネスモデルから 「プラットフォーム」 中心のビジネスモデルへの転換を試みています。
これまで、主な収入源としていたコネクティビティサービスがコモディティ化したため、複数のサービスを組み合わせたバンドルサービスへ拡充しています。自らをプラットフォーマーとして位置づけようとするこの試みの重要な要素は、サービスのオーケストレーション(個別サービス間の有機的統合)です。通信事業者がパートナーを活用しながら スマートエンタープライズ、スマートシティ、スマートホーム等のデジタルイニシアティブを推進していくことが重要です。
情報が価値創造の鍵となるデジタル経済において、プラットフォーマーとなりデジタルライフスタイルを生み出す幅広いサービスのポートフォリオを提供することで、通信事業者は効果的に収益を上げることができます。
通信事業者は、バリュープロポジションを改めて考え直し、自動化、ビッグデータ、人工知能、クラウドコンピューティングなどのさまざまな技術を活用して、IT環境を変革していく必要があります。
パーソナライゼーション、セルフサービス、オムニチャネル体験など、顧客の期待が急速に変化しているため、通信事業者はこれまで以上に迅速に対応し、革新的でコストパフォーマンスの高いサービスを提供する必要があります。
プラットフォーマーを目指す通信事業者にとっての大きな障害は、通信事業者のサービスカタログ(サービス・製品情報)が分散化、サイロ化されていることです。サービス・製品の平均寿命はますます短くなり、バリエーションも急速に増え続けています。さらに、サービスの提案内容とその定義は、価格、流通チャネル、有効期間、ターゲットグループなどの幅広い要素で構成されるようになり、サービスカタログの管理は困難を極めます。
サービスカタログに関する問題には、次の3つの点が挙げられます。
1.システムのサイロ化
通信事業者は、サービス・製品を提供するために、さまざまなシステムを構築してきました。これは通信事業者が、チャネル管理、注文管理、請求システムなど複数のシステムで定義されている夫々のデータモデルに依存していること、また固定回線サービスを取り扱う従来のビジネスサポートシステム(BSS)が、モバイルサービスを提供するシステムのように新機能に対応できない可能性があるということを意味しています。つまり古いアプリケーションと新しいアプリケーションの間に互換性がないため、サービスカタログの管理が煩雑になってしまっているということです。例えばその影響として、サービス・製品の情報を扱うカスタマーサービス担当者が、必要なサービスの情報を得ることに非常に時間を要しています。こうしたサービスカタログのサイロ化や不整合は、生産性の低下、運用コストの上昇、不適切なサービス提供、製品開発の遅れにつながります。
2.データ管理の複雑さ
新しいサービス・製品を設計、導入する際に、プロダクトマネージャーが直面する問題は、サービス・製品のデータを複数のデータベースに分散して保存していることです。システム毎にデータモデルが異なるため、サービスのポートフォリオ全体に単一のデータ構造を展開できません。そのため、プロダクトマネージャはサービス・製品を定義する際に既存のコンフィギュレーションを再利用できず、一から作成しなければならず、時間を要してしまいます。また複数のアプリケーションを使用することによる作業の重複は、データの整合性が保たれずサービス・製品を存続させていくことが難しくなってきます。
さらに課題となるのは、サービス・製品のデータを維持し、システムやサービス・製品間で同じデータを調整するという作業です。これには多くの作業が伴います。
また乱雑なデータ環境で一貫したサービス・製品のパフォーマンスデータを取得することがほぼ不可能です。さまざまなシステムで定義されたサービス・製品の概要を把握するのは非常に大変です。
3.情報の分散化
複雑なサービス・製品の定義と管理が分散化していると、製品管理部門にとどまらず、広範囲に影響を及ぼします。最も重要なことは、サービスを受ける顧客に直接影響を及ぼす可能性があることです。
例えば、サービスの情報が一貫していないと、顧客に誤った価格情報を提供してしまい、注文管理に支障をきたします。そしてサービスカタログの分散化は、サービスフルフィルメントにも影響します。例えば、サービスとリソースのマッピングが正しくないために、顧客の要求が正しく伝達されないとうことです。これらの結果、サービス解約件数の増加や、カスタマーサービスのコストも増加してしまう可能性があります。
通信事業者は、どのようにしてこれらの問題に対処し、従来のビジネスモデルからプラットフォーマーへの転換を成功させることができるでしょうか。
そのためには、異なるサービスカタログを統合、一元化することが重要です。
バリューチェーン全体にわたるサービス・製品データのサイロを統合することで、通信事業者は5つのメリットを得ることができます。
1.主力サービスとパートナーのサービスのバンドル
通信事業者はプラットフォームを効果的に活用するため主力サービスとパートナーのサービスをシームレスに統合する必要があります。
サービスカタログを一元化することで、サービスのバンドル化が容易になり、顧客の要望に応じたサービスカタログを速やかに案内できるようになります。さらに、カタログの一元化により、さまざまなパートナーのサービスや決済の自動化が促進され、シームレスなパートナーエコシステムが実現できます。
2.チャネル体験の向上
消費者がさまざまな接点でサービスを体験するオムニチャネルの時代において、通信事業者は、異なるチャネルで、優れた、カスタマイズされた、そして一貫した体験を提供することが重要です。
サービスカタログの分散化をなくすことで、すべてのチャネルのサービス・製品の情報を一元化することができ情報の一貫性を確保できます。そしてその結果として顧客満足度が向上します。
サービスカタログの一元化には、主に2つのポイントがあります。1つは、オープンなAPI(Application Programming Interface)を実装することで、API間の差を吸収できる点です。2つ目はサービスカタログを一元化することで、異なるシステム間でのデータの同期が容易になることです。
これらの点が解決されれば、通信事業者は顧客のライフサイクル全体にわたって魅力的な体験を提供できます。そして顧客の獲得・維持を大幅に向上させることができます。
3.マスパーソナライゼーションの提供
ひとりひとりの顧客の要望にあわせたサービスを提供することは、多くの通信事業者にとっての課題です。このマスパーソナライゼーションとは、通信事業者からの提案をもとに顧客が自身で新しいサービス・製品を作り上げることです。優れたデザインのサービスカタログと柔軟なモデリングを用いることで、ポートフォリオの複雑さや運用コストの増加を招くことなく、マスパーソナライゼーションを可能にします。
4.タイム・トゥ・マーケットの短縮
最適化されたサービスカタログを使用することで、通信事業者は「アイデア出しからリリース」まで新サービス・製品開発のプロセスを迅速に実行でき、作業期間を短縮できます。
新サービス・製品のアイデアをめぐって関係者はブレーンストーミング、レビュー、プロトタイピングの実施要否判断と進めていきます。その際にサービスカタログが一元化されていると、商品、価格、料金プラン、ルール、ポリシーなどの関連データが集約され、新サービス・製品の構成を1つのアプリケーションの中で実現できます。
通信事業者では、サービスや製品のリリースまでのライフサイクルを短縮するために、一元化されたサービスカタログにAPIとフェデレーションを導入してITへの依存度を最小限にすることを検討する必要があります。
5.ゼロタッチ操作の実現
時間や場所を問わずにオンデマンドサービスを利用したいという顧客から、通信事業者への要望が高まっています。これに応じるためには、ゼロタッチフルフィルメントが不可欠です。顧客がプラットフォームパートナーのサービスにアクセスできる場合はなおさらです。通信事業者は異なるシステムや機能に分散しているサービスカタログを統合することで、さまざまな構成を連携・調整できるようになります。その結果、顧客の要望を実現できます。
通信事業者は、コモディティ化されたサービスのプロバイダーではなく、真のプラットフォーマーになりたいならば、ITシステムを簡素化し、アジャイルに対応していかなければなりません。
サービスカタログを一元化することで、顧客満足度の大幅な向上とイノベーションを促進するだけでなく、運用効率を向上させ、収益機会の損失を防ぐことができます。
デジタル経済では、データに基づく洞察を活用して消費者に魅力的な価値を提供する革新的な企業に恩恵がもたらされます。通信業界も同様です。サービスカタログの情報を収集、保存、分析、活用する方法を改めて考えてみること、これが通信事業者の利益となるのです。
※掲載内容は2021年10月時点のものです