近年、国内企業ではAIやクラウドの利用が増加しています。多くの場合、これらは社内業務の効率化やコスト削減などの「守り」の施策として用いられていますが、企業の競争力を強化するためには、より積極的な「攻め」の戦略が重要です。本稿では、AIやクラウドの技術が競争力強化につながる理由と、具体的な強化策についてお伝えします。
生成AIが話題となっているように、AIは私たちの生活の中でとても身近なものになりつつあります。ビジネスに目を移すと、既に業務の一部にAIを取り入れた方もいれば、検証を始めたという方もいるでしょう。AIはどのように活用するべきなのか、ビジネスの観点から考えてみます。
AIの用途でよく見られるのが、チャットボットに組み込んで問い合わせを省人化する、短時間で情報収集する、文章の作成や要約をAIに任せて書類作成の時間を短縮、翻訳をAIに任せる……といったように、「業務の改善や効率化」にAIを使うケースが多いようです。このような使い方はどちらかというと「守り」のための施策と言えます。
もちろん「守り」の用途でもAIは役に立ちますが、生成AIを含めたAIの高度な機能を考えると、自社が提供する顧客体験を向上させ、その価値を最大化する「攻め」の方向にAIを活用すべきです。例えばAIで顧客分析を行えば、自社商品やサービスの離反率を削減できる効果的な施策のヒントを得ることもできます。マーケティング分析に使えば、リスクとインセンティブの両方を考慮した上で価格設定を支援することもできるでしょう。これまで分析が難しかった非構造化データも手軽に分析可能となり、顧客の声を自動で分類し対応策を作成することもできます。AI活用の幅を広げれば、意思決定をより明確にしたり、新たな価値創造のための示唆を得たりといったビジネスへの貢献も期待できます。
SaaSやパッケージなどのソリューションでは、分析、予測、早期アラートなどのシーンでAIが積極的に活用されています。同じように自社開発のアプリケーションやデータ基盤でAIを活用すれば、自社の競争力をさらに強化できるはずです。
TCSとお付き合いのあるグローバル企業もすでにAIをビジネスに活用しています。ある小売企業では、AIを活用して、在庫配分、需要・供給予測を最適化し、サプライチェーンの近代化を達成しました。保険会社では、深層学習のソリューションを提供、自動車の事故画像から損傷レベルを評価し、保険金の支払額を推定しています。ある銀行ではAIベースの意思決定インテリジェンス・テクノロジーで不正取引を検出しています。観光関連企業では、天気、飛行機の遅延情報など外部から得られるデータをAIで分析し、緊急事態発生時の状況管理に役立てています。
それぞれの業界で、業務やビジネス上の課題に対して積極的にAIを利用しています。そして生成AIの登場は、こうしたAI活用をさらに加速させています。
AI活用では、データ基盤の整備とクラウドの活用は特に重要な検討事項です。新たなビジネス価値を創造する「攻めのAI」を目指すなら、質・量ともに整備されたデータ基盤が必要であり、データの利用に関してデータマネジメントやガバナンスも考慮しなければなりません。このようなAI活用に適切なデータ基盤を、最適なコストと適切なアジリティを確保して構築し運用するにはクラウドの利用は必須と言えます。
一般に、クラウドを使ったデータ基盤では、データを取り込んだ後は、データのクレンジングやバリデーションといった処理を行い、アクセス権の設定や暗号化でセキュリティー対策を施しガバナンスを整備して、データを保管します。保管されたデータは、分析に活用されたり、APIを介して他のアプリケーションに連携されます。各種処理を行うデータ基盤は、クラウドベンダーが提供する機能でも、サードパーティーのサービスでも構築は可能ですが、どちらを選ぶにせよ、AIからアクセスしやすく、完全な状態のデータを提供できる基盤である必要があります。でなければAI活用の妨げになってしまいます。
生成AIを含むAIは新しい価値を創造する可能性を秘めた技術です。そのため、クラウドシステムを利用してデータを標準化し、適切な統制管理をするのはもちろんのこと、AIが“効率的に適切なデータにアクセスできる環境を整備する”ことは、AIの潜在能力を引き出す上で非常に重要です。
データ基盤の用意ができたら、いよいよAIを活用したシステムの導入です。これまでのITシステムの組織への導入と同様に、構想からはじめてデザインフェーズを経て、概念実証を行い、導入ロードマップを策定して実装、運用と進みます。
しかし、企業が積極的にAIをビジネスで活用する際には、図で示すようにマネジメント層がAI活用を優先課題として取り扱う体制、データ機密性の確保、高い品質や鮮度を保った学習用データの用意、AI人材の確保など、注意しておくべき要素があります。そこで最も大切になってくるのが、「Responsible AI」、すなわち「責任あるAI」です。
生成AIに関連する主なリスクには、誤った情報や意図しない偽情報の生成、倫理的に問題のある内容、機密情報の漏洩、著作権違反などが挙げられます。また、AIが処理を行う過程で、その詳細な説明が難しいケースもあります。このため、人間中心の価値観、公平性、透明性、説明可能性、安全性などが特に重要視されています。
「責任あるAI」とは、AIが持つリスクへの対処に取り組む体制・仕組みを備えたものを指します。その詳しい内容については、2019年にOECDが策定したAI原則や、クラウドベンダー各社が公表している資料などから確認することができます。
参考:OECDによる「人口知能に関する理事会勧告」(総務省による翻訳)
グローバル標準に各地域の要件を組み込んだ「グローカルモデル」
クラウドは、場所にとらわれず自由にビジネスを推進できるので、グローバル展開にとても有利です。ただしAIのグローバル展開を行うなら、地域ごとにクラウド環境を最適化するのではなく、まずグローバル標準という基本になるクラウド環境を構築し、自社のガバナンスを確立した上で、各地域に必要な要件を組み合わせる、「グローカルモデル」が有益です。クラウド上にグローカルモデルを構築すれば、データ基盤をグローバル標準に寄せることができます。結果として全社で保有するデータを十二分に活用できるAI基盤の構築が可能になります。
AIを活用する際は、目先の業務改善や効率化の「守り」に留まらず、ビジネスを加速させる、顧客体験を高度にする「攻め」の姿勢で臨みましょう。そのために重要なのは、良質なデータ基盤とクラウドを活用したシステムです。これがAI効果を最大化するための鍵と言えます。良質でガバナンスが効いたデータは、自社で活用するだけでなく、データマーケットプレイスに流通させることで新たな収益につながるケースもあります。
TCSは、AI活用に適したクラウドシステムや、データマーケットプレイスへの対応といった用途に向け、効果的な支援を行うことができます。従来システムのクラウド環境への移行のための事前調査から、クラウドネイティブな基盤の設計、移行サービス、最新テクノロジーに対応させるモダナイゼーション、マルチクラウド対応など、用途に応じた多様なサービスを有しています。
最後に、TCSが関与したAIおよびクラウドに関する事例をいくつか紹介します。これらの事例が皆さまの参考になれば幸いです。
詳しい事例のご案内や、AI、データ基盤、クラウド環境の構築に関するお悩みなどがあれば、お気軽にお問合せください。