かつてドッグ・イヤーと称されるほど速いペースで発展してきたICT業界ですが、その速度は今も緩まっていません。そんなICTが生活のすみずみまで行き渡り、生活の基盤となった結果、社会の変化も加速しました。スマートフォンの普及した現代社会は、場所や時間を問わず高度なアプリケーションにアクセスできるモバイル・ファーストが当たり前です。それにともない、世界中の消費者同士が直接結びつくC2C市場の出現、SNSによる目まぐるしい情報交換、AI機能によるインタラクティブなコミュニケーションができるアプリケーションの登場など、ビジネス環境を分単位、秒単位で変える動きが強まっています。
日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ(日本TCS)は小売・消費財業界の多くの企業もお手伝いしていますが、この分野はとりわけ前述のようなテクノロジーの進歩の影響を受けており、顧客のトレンドが変化する速度は以前と比べものにならないほど高速です。
最近では、経済産業省の推進する「キャッシュレス・消費者還元事業」に影響され、QRコード決済サービスが急増。これまでクレジットカードとデビットカード、ICカードや「おサイフケータイ」の電子マネーばかりだったキャッシュレス決済手段も、一気に多様化しました。10月1日には、消費税の税率が引き上げられると同時に、複雑な仕組みの軽減税率が導入されました。さらに同じタイミングで、キャッシュレス決済に対する政府のポイント還元制度も開始しています。ただし、この制度は2020年6月までの期間限定です。さらに、2020年3月まで有効な「プレミアム付商品券事業」も出回ります。消費者向けサービスを展開する企業は、こうした変化に素早く対応しなければなりません。
変化の激流に飲み込まれず前進し続けるには、ビジネスのやり方を迅速に変え、瞬時に新しい価値を継続して提供するしくみが不可欠です。そのためには、企業における仕事のやり方や組織のあり方をアジャイルに対応できるように変えていく必要があります。
社会の変化を振り返るため、少し歴史をさかのぼってみます。18世紀は蒸気機関の時代で、大量生産につながる第一次産業革命が起きました。TCSは、このビジネス環境を「Business 1.0」と呼びます。20世紀初頭の電力・航空輸送時代は、製造分散化とサプライチェーン拡大という第二次産業革命です。「Business 2.0」としましょう。20世紀後半はコンピュータの時代です。さまざまな処理が自動化され、生産性が飛躍的に向上しました。第三次産業革命であり、「Business 3.0」です。
現在は、ICTが社会に浸透したデジタル時代。ネットワーク化、モバイル化、そしてそれらの民主化により、デジタル技術とビジネスが融合し始めました。この「Business 4.0」時代に誕生するスマートエンタープライズが、これからの主役になります。Business 4.0にいち早く適応し、ビジネス形態を変化させた事例をいくつか紹介しましょう。
米国のある大手家電量販店は、ネット通信販売サービス台頭の影響を大きく受けました。顧客は来店するものの、商品の使い勝手を店頭で確認して他社のネット通販で注文するショールーミングしか行わず、業績が低迷したのです。この量販店は、商品知識の豊富な従業員を活用して軸足をサービス・ビジネスへ移し、家電品全般の困りごとを解決する家庭のCTO的立場を目指しました。また、家電品に取り付けたセンサーを使うIoTベースの見守りサービス、位置情報ゲームを用いて店舗の近くにいる顧客へクーポンを発行するゲーミフィケーション送客策など、最新テクノロジーを積極的にビジネスと結びつけています。
別の小売店は、店頭に並べた商品の価格をフレキシブルかつリアルタイムに変えられるシステムを構築しました。さらに、リアル店舗とネット店舗で構成されるオムニチャネルを有機的に運用できるよう、両チャネル間の在庫管理と商品流通の円滑化も図ったそうです。店舗の棚割りを画像解析し、販売が伸びる商品配置を分析する取り組みまで行っています。
従来と同じビジネスのやり方のままだと、社会の変化、特に消費者の変化にとても対応できません。例えば、小売業における競合を意識した値付けのリアルタイム変更や最適な棚割りの分析など、瞬時に対応するには人間の手作業では無理があります。ICTを全面的に活用する以外の方策は考えられません。テクノロジーはビジネス課題解決に必要不可欠な要素で、人材とともにビジネスを進める両輪の一つです。テクノロジーと人間が共働していく環境において、これからの人材に求められることはより創造的な分野に特化することであり、テクノロジーを使いこなす指導者の位置づけになることです。
Business 4.0時代は、企業をアジャイル化し、社会や消費者に対する企業の追従速度を加速させなければなりません。しかし、具体的に何をしたらよいのでしょう。TCSは「エンタープライズアジャイル」という概念を提唱し、お客様のアジャイル化を支援します。
アジャイルと聞くと、ソフトウェア分野のアジャイル開発を思い浮かべる方が多いでしょうか。TCSは、アジャイルを単にソフトウェア開発に留めるのではなく、企業全体に拡大させることがBusiness 4.0に必要と考えます。冒頭で述べたとおり、現在のビジネス環境が受け止めるべき変化は、テクノロジーにとどまりません。猫の目のように変わる社会や法制度、消費者の行動様式にも対応し続ける必要があります。ソフトウェア開発だけのアジャイル化では、社会の変化から後れを取るはずです。そのため、開発チームだけでなく、事業部門などの組織も巻き込み、IT部門とビジネス部門が一体となったアジャイルな組織を編成します。ビジネス環境の変化に即応する企業を実現させる変革モデルが、エンタープライズアジャイルなのです。
エンタープライズアジャイルへ至るには、まずマインドセットを変え、仕様を決定してから開発を始めて完成したらリリースする、という完璧主義、完成主義の価値観を見直します。マインドセットを変えるコツの一つとして、アジャイルはMVP(Minimum Viable Product)をリリースしていくことであるという認識があります。MVPとは「顧客価値があり、利益を生み出せる最小限のもの」です。MVPをリリースする過程においては、価値基準を理解することが決定的に重要です。たとえば、車輪は車輪だけではユーザーにとって価値がありませんが、スケートボードになれば価値を持ちます。車輪は、移動手段となって初めてユーザーが価値を感じるのです。また、これが自転車になったり、自動車になったりすることで、よりユーザーに対する価値が高まっていきます。柔軟に形を変えられる体制を作り、必要に応じて開発部門以外の力も借りましょう。こうして、アジャイルな企業へと生まれ変わります。
組織全体のアジャイル化に取り組むとしても、一筋縄ではいきません。ICTの開発や運用に対するマインドセットを自発的に変えることも困難です。そこで、TCSが必要な経験やノウハウ、保有する人材、資本、能力といった豊富な資源をIntelligent(AI)、Agile(アジャイル)、Automation(自動化)、Cloud(クラウド)という基幹テクノロジーで最大限活用し、お客様のエンタープライズアジャイル実現を支援します。
たとえば、エンタープライズアジャイルを実現させようとすると、人的リソース不足に悩まされます。TCSは、世界各地の拠点から人材を投入し、この問題を解決します。これに加え、「TCSロケーション・インディペンデント・アジャイル」と呼ぶ独自手法を考案し、地理的な制約から解放された分散型アジャイル・モデルでも対応可能です。
開発の進め方でも、アジャイル手法を徹底的に適用します。その一例は、ジャガー・ランドローバー・ジャパン株式会社様のオンライン・セールス・アドバイザー(OSA)構築プロジェクトで、先に述べましたMVPを継続実行可能にする体制を提供しています。
繰り返しになりますが、現代のビジネス課題解決にテクノロジーは欠かせません。革新的なテクノロジーが次々と現れ、既存技術もすぐに陳腐化してしまいます。もっとも、新しいテクノロジーだからといって、対象プロジェクトで採用できるとは限りません。コストや法規制、スペックなどの理由で採用は時期尚早、と判断することが妥当な場合も多いでしょう。変化が激しい、陳腐化するテクノロジーを最大限に活用していく必要がある企業において、自前で用意するには時間、コスト、リソースが必要です。TCSは、スタートアップ企業や学術・研究機関、500名を超える研究員が連携するネットワーク「TCS Co-Innovation Network(COIN)」を運営し、最先端の技術を常に研究しています。そこで得た知見をプロジェクトへフィートバックし、活用できるかどうか、採用すべきかどうかなど、お客様が見極めるお手伝いをします。
ガートナーが実施したサーベイ*の結果では、企業のリソース不足が叫ばれる中、今後の外部委託範囲については、「設計・開発・実装」と「運用・保守」だけでなく、上流工程である「戦略・企画立案」においても、増やしていく意向が見られます。もちろんTCSは、こうした要求にも応えられる人材・体制を用意しています。
TCSは、変化の激しい小売・消費財業界の企業がデジタルによる解決を考える支援と求めるリソースを提供し、手を携えてエンタープライズアジャイルによる変革の実現を目指します。
* Gartner, プレスリリース, 2019年8月20日, 「ガートナー、デジタル時代のパートナー戦略に関する指針を発表」https://www.gartner.com/jp/newsroom/press-releases/pr-20190820 (調査方法:2019年3月に実施し、国内のITユーザー企業においてITシステムの構築/導入/保守/運用およびサービスの委託先の選定に関与している担当者のみを対象にしました。有効回答企業数:412社。)
※掲載内容は2019年10月時点のものです