日本語 | English
日本の保険業界は、世界最大規模の市場の一つであり、国内大手保険会社と外資系保険会社が混在する寡占型市場です。現在、日本の保険会社は、自然災害、高齢化、出生率の低下、円安、医療費の増加など、日本固有の複数のリスクに直面しています。さらに、自動車保険や個人向け生命保険の成長が停滞し、デジタルトランスフォーメーション(DX)の導入の遅れが、競争力の低下につながっています。
これらの課題は、レガシー技術や複雑なITアーキテクチャによって一層深刻化しており、これらの障壁を克服するためには、AI、アプリフィケーション、ローコード・ノーコード・プラットフォーム、自動化、IoT、GIS(地理空間情報)などの新しいデジタルテクノロジーの導入が急務です。しかし、この変革を実現するには、適切な人材と高度なスキルが不可欠です。
本稿では、昨今の業界の動向を踏まえながら、保険業界のDX戦略、進め方、今後の展望について日本TCSのエキスパートが概説します。
日本の保険業界は、人口減少による国内市場の飽和が進む中、大手保険会社の海外進出は今後も続くと予測されています。
損害保険業界では、引受利益は自動車保険が大きな割合を占め、これに火災保険、傷害保険、医療保険が続きます。しかし、自然災害の頻発により火災保険事業の収益性が低下し、現在の収益モデル、すなわち損害保険会社が料率改定で収益を確保する方法では、持続可能な収益の確保が困難です。
一方、生命保険業界では、デジタル化、医療保険改革、年金商品の改革、海外事業の展開など、従来とは異なるチャネルの拡大が進んでおり、日本の生命保険会社には依然として成長の余地が見込まれます。
また、他産業における技術革新により、日本の保険会社も商品やサービスの変革が求められています。自律走行車の開発、ADAS(先進運転支援システム)の導入、ウェアラブルデバイスを通じた予防治療の普及、デジタルショッピング体験からロボットによるショッピングや食事体験へのシフトなど、新たなリスクに対応するためには、革新的な保険ソリューションが必要です。
持続可能なビジネスモデルを構築するため、保険会社は商品や特約をわかりやすい契約条件で簡素化する必要があります。このアプローチにより、保険料収入が増加し、デジタル直販やセルフサービスによる業務効率の向上が期待されます。さらに、商品やサービスの革新、保険金請求の効率的な処理のためにデータや分析に投資することは、保険会社にとって大きな成長機会となります。また、QoL(生活の質)を向上させるためのエンゲージメントが組み込まれたカスタマーポータルの導入も、新たな成長の可能性を開くでしょう。
日本の保険業界は、技術革新、顧客中心のビジネスモデル、エコシステムパートナーとの連携による価値創造において、大きな挑戦に直面しています。市場ダイナミクスが激化する中、競争力を維持するためには、効率性を高め、顧客体験を革新するためのデジタルトランスフォーメーション(DX)戦略が必要です。
保険業界のDX戦略についてのTCSの視点
DX戦略は、業務の合理化、サービスのパーソナライズ、リスク管理の改善などを通じて、より顧客視点に立った長期的な利益をもたらします。
AI、クラウド、IoT、ビッグデータ、ブロックチェーン、サイバーセキュリティなどのデジタルテクノロジーは、日本の保険業界を根本から変革する上で極めて重要です。これらのテクノロジーにより、商品設計の迅速化、引受や保険金請求管理の自動化、そして顧客とのより深い対話が可能となります。
DX戦略の柱には、以下が含まれます。
1) 顧客中心のビジネスモデルの構築
単なる取引のためだけではなく取引を超えて顧客との関係を強化し、シンプルかつ目的に合った商品を提供することが求められます。モビリティ、AI、ビッグデータ、アナリティクスなどを活用して、年齢層、リスクプロファイル、日本の企業組織の課題に基づく顧客の多様なニーズを把握します。また、生成AIを活用することで、新規契約から保全、保険金支払いまでのカスタマージャーニー全体において、顧客との関係を飛躍的に強化できます。
2) 保険中核業務の効率化
保険の中核業務のデジタル化と効率化は、DX戦略を策定する上で重要な課題です。 下記の方法で、業務の運用を効率化できます。
3) 「デジタルファースト」プロジェクト
下記の機能を備えたエクストリームデジタルと「ヒト+AI」により、顧客エンゲージモデルを拡張します。
4) B2B2C デジタルビジネスモデルの実現
現在の保険業界において、ビジネスの融合は必要不可欠です。エコシステムのコアコンピテンシーを組み合わせることで、大きな成長機会が得られ、顧客体験も向上します。
ここでは、保険事業の成長を促進する画期的なB2B2Cビジネスモデルの一部をご紹介します。
DXイニシアチブの成功には、デジタルと保険ビジネスの双方に精通したリーダーが不可欠です。現在、日本の保険会社は、DXリーダーのスキルギャップを解消しDXイニシアチブの加速に取り組むことが求められています。
以下に、DXイニシアチブを推進するためのDXケイパビリティモデルを示します。
DXの成功には、優秀なDX人材の確保が欠かせません。これらの人材は、社内での育成や、信頼できるITベンダーを通じて世界中から確保できます。また、社内のDXリーダーは、アウトソーシング戦略を駆使してデジタル人材の獲得、スキルの向上、そして人材の定着を図り、技術提携やパートナーシップを通じてDXを推進していくこと重要です。
このイニシアチブには、持続可能なDX戦略の策定が含まれます。その戦略とは、テクノロジーの進化やビジネス環境の変化に柔軟に対応でき、迅速な軌道修正が可能である必要があります。また、組織のデジタル成熟度を評価し、競争力を維持するために年に1~2回の戦略見直しが求められます。
TCSは、保険業界の現状を徹底的に分析し、未来に向けた最適なビジョンを提案し、保険会社がデジタル保険の未来に向けて確実に進むための支援を提供してまいります。
日本の保険業界は、少子高齢化という新たなリスクに画期的な方法で対処しつつ、競争力と収益性を維持していかなくてはなりません。
今後、保険会社が直面する課題には、以下が挙げられます。
進化するビジネスリスクに対応できる商品の構想
産業オートメーション、サイバーセキュリティ、地政学リスク、健康と幸福、過失によるコンプライアンス違反、グリーン経済などをはじめとする、ビジネスにおける新たなリスクが予想されます。画期的な商品やサービスを業界や地域に合わせてカスタマイズすることで、これらのリスクに対応できます。
2050年ネットゼロ実現に向けた取り組み
データへの迅速なアクセスと高度なモデリング技術を活用し、引受や投資方針における短期および長期的なネットゼロ目標の達成を目指す必要があります。
医療保険の改革
2025年には団塊の世代が75歳を超え、医療サービスの利用が増加すると予測されています。B2B2Cモデルでの予防医療サービスと体系化された医療保険商品が、差別化の大きな要因となるでしょう
生成AIの活用
生成AIへの投資は、オペレーション、マーケティング、顧客エンゲージメントを最適化する上で重要な予算項目となります。データを有効化し、ユースケースの実現を加速するためのスキルと基盤を強化することで、拡張可能な生成AIプラットフォームを開発できます。
私たちTCSは、現時点でのDXへの投資は保険業務の効率化につながると確信しています。そして、最新の技術を採り入れ、消費者行動、保険事業環境、リスクの変化に対応するためには、常に、DX戦略とスキルの継続的な見直しが不可欠と考えています。