次世代AI
次世代AIの台頭で、生産性を飛躍的に向上できる時代を迎えている。
生成AIは、翻訳、質問への回答、データ分析、利用者の嗜好に合わせた提案やブランドイメージにそったユーザーインターフェースの設計などを行います。チャネルと顧客接点を通じ、コンテンツに対する高度なパーソナライズを実現することでその価値を高めています。
ChatGPTやMidjourneyのような生成AIは、単独で利用できるだけでなく、「エンタープライズAIプラットフォーム」に組み込むことで、企業の様々な業務に対応できます。
仕事のアシスタントのように、インスピレーションや新しいアイデアを提供し、時には相談役となるでしょう。企業のさまざまなデータと連携して複雑な業務の自動化も実現できます。
生成AIは、すでに様々な業界に大きな影響を及ぼしていますが、本稿では生成AIがどのように企業のマーケティングを変革できるのか、TCSのイノベーションフレームワーク(クレイマップ)による変革の後押しについて解説します。
TCS クレイマップ
生成AIによる変革を加速するイノベーションフレームワーク“TCS クレイマップ”とは。
TCS クレイマップはイノベーションアイディアをマッピングするためのフレームワークです。企業が新しい顧客や市場から収益化するためのケイパビリティ(企業の競争優位性とその能力)、そのケイパビリティに必要な要件に基づき、最も寄与する可能性のある変革のアイデアを特定し、推進することができます。下図のように、テクノロジーのリスクとビジネスのリスクの関連を示した4象限でアイデアを区別します。
第1象限(右下):
現在のビジネスをより効率的かつ効果的にすることを目的としています。既存市場向けに企業が現在保有するケイパビリティでコアビジネスを強化するためのアイデアを並べます。
例えば、生成AIをつかったリサーチ(ブランド、市場、顧客)、新たなマーケティングやブランディングのためのコンテンツ制作支援、チャットボットを活用したカスタマーサポートの強化、顧客の嗜好や購入履歴、閲覧履歴に基づいた高度にパーソナライズされた情報提供などがこの象限に該当します。
本象限における生成AIの活用を推進する際は、全体のコストと利益、社会影響等を考慮する必要があります。トレーニングやクラウドの利用、付随する業務にかかる費用は、現在の業務にかかる費用を上回ってはなりません。
第2象限(右上):
新しいケイパビリティとビジネスモデルによる現在のビジネスの変革を目的としています。現在直面している課題を革新的な技術で対処するためのアイデアが該当します。
例えば、生成AIを使った企業のブランドガイドラインに則ったコンテンツの制作、広告制作、広告キャンペーンの最適化、没入感のあるブランド体験を創出することなどが挙げられます。
生成AIが生み出すアイデアやバリエーションを活用したクリエイティブなデザイン制作もマーケターにとっては有用です。トミー ヒルフィガー社は既にこうした活動を行っており、メタバース・ファッションウィークの中で、顧客と共創してアイテムをデザインする機会を設けました。
第3象限(左下):
第3象限では、現在のケイパビリティを新たな顧客や新たな市場セグメントに拡張していくことを目指します。つまり、新たなエコシステムやテクノロジーベンダーと提携し、企業のサービスや製品を新しいセグメントに投入し、より多くの方に利用してもらうことです。
マーケティングやマーケティングテックの分野でニッチなスキルを持つ企業は、そのスキルやツールのプラグインをAIモデルに対応させることで、新たな収益源を生み出すことができます。またライセンス供与やセルフサービス型のプラットフォームを開発することで大きな収益化が可能になります。例えば、Spectrum Reach社は、AIによるナレーションを使って5分で高品質のテレビCMを作成できる業界初のAI搭載プラットフォームを発表しました。
第4象限(左上):
「新しいケイパビリティ、市場」、「ブルースカイ」、「破壊的イノベーション」についてです。
この象限に含まれるアイデアは、業界全体、さらにはエコシステムを大きく変える可能性があります。1つまたは複数の革新的なテクノロジーを活用し、これまでとは比べようにならない製品を開発する場合もあれば、既存のテクノロジーからまったく新しいサービスを生み出す場合もあります。
象限4のイノベーションは、長期的かつ未来志向的で、ビジネスに重要かつ永続的な競争力をもたらす可能性があります。
AIブランドプロデューサー、AIマーケター、AIで生成された製品やインフルエンサーとのコラボレーションもこの4象限に含まれます。また、五感を刺激するような、非常にリアルで没入感のあるバーチャルリアリティ体験の創造も重要です。
ユーザーは現実と見分けがつかないような仮想世界を探検し、これまでにない方法で仮想の製品やサービスを購入し、人間と触れあうことができます。これは、マーケティング担当者にとって、新たな顧客エンゲージメントとインサイトを得る手段となっています。
AIと機械学習を駆使して自動車をデジタルアート化したBMWの「The Ultimate AI Masterpiece」プロジェクトはその一例です。900年の美術史から約50,000点の絵画を解析・学習したBMWのAIモデルは、BMW 8シリーズグランクーペの表面に全く新しいアートを描きました。
上述のクレイマップは一連の可能性を示しており、企業はこのマップを業界のニーズに合わせて適用することが可能です。
課題
人による監督が生成AIのリスクを軽減します。
生成AIの導入には、それなりの課題がつきものであり、この新しいテクノロジーの波に乗ろうとしている企業は、主に次のような点を認識すべきです。
トレーニング:
生成AIは、正確な結果を出すために膨大なトレーニングデータを必要とします。これらのデータを集めるためには時間がかかります。
データセキュリティー:
生成AIは多くの場合、個人情報や専有情報を含む機密データを扱います。悪意のある者が生成AIを悪用し、サイバー攻撃を仕掛ける可能性があります。
バイアス(偏った学習による結果):
生成AIは、トレーニングデータ、アーキテクチャー、または使用方法によってもたらされるバイアスが学習の結果に反映される可能性があります。
プライバシー:
ユーザーが入力した個人に関する情報が生成AIで特定できるようになった場合、プライバシーに関する問題が生じる可能性があります。
幻覚:
「幻覚」と呼ばれるように、生成AIは事実と異なる内容をあたかも正しい内容であるかのように表現します。
誤情報:
誤った情報や一貫性のない内容を生成し、それによって評判が傷つけられる恐れがあります。
不適切な内容:
攻撃的なコンテンツは評判を傷つけ、名誉毀損訴訟など高額な結果を招く可能性があります。
所有権の問題:
トレーニングデータや生成されたコンテンツの所有権に関する紛争が生じる可能性があります。知的財産権や著作権の侵害のリスクを考慮すべきです。
人が監督者として介在する一連の制約を設けることで、生成AIは正確な情報で応答し、サードパーティアプリケーションと安全に接続ができるようになります。
マーケティングの初期段階では、リスク低減のために、公開データまたは機密性の低いデータを優先して利用すべきです。個人情報(PII)を保護し、生成AIの出力結果は常に人間がチェックする体制が必要です。
マーケティング事業者の進むべき道
人とAIが協働する未来。
生成AIの活用を検討している広告代理店やマーケティング事業者は、はじめに基本的なビジネスモデルへの潜在的な影響について、短期的・長期的な影響も含めて評価を行う必要があります。TCSのクレイマップフレームワークを使って、各マーケティングの業務を第1象限から第4象限にマッピングしていくと、その影響を簡単に評価することができます。
各業務を評価する際には、以下の点を考慮することが重要です:
・特定のユースケースに限定せず、広い範囲の影響を考える
・ワークストリームとその活動を定義する
・マーケティングのバリューチェーン全体に関する、ワークストリームと活動の効果および潜在的な影響を調査する
・AI、自動化、メタバース、チャットボット、その他の新興技術の組み合わせの可能性を探る。
・ユーザーの支持を得て、イノベーションで生産性の向上ができるかどうかを確認する。
・倫理性を測るテストをうけ、社会、環境、AI規制に準拠していることを確認する。
これからのマーケティングの仕事は、人間とAIが共に働く協働型になるでしょう。
企業は、重要度が高い(稀少なスキルの向上など)マーケティング業務に焦点を当て、手間のかかるタスクは効率的に自動化する必要があります。つまり、そのゴールは、新しいケイパビリティを受け入れながら、人間の能力を高めることです。
AIを最大限に活用するためには、マーケティング、法務、AI、デザイン、市場進出、迅速なプロトタイピングといった様々な領域のエキスパートで構成されるクロスファンクショナルチームが不可欠です。
バイアス、プライバシー、データ所有権、デジタル著作権などの生成AIの安全性に関する懸念事項に対処しながらも、そのリスクと価値のバランスを常に考慮することが非常に重要です。
マインドセットの変革
生成AIは、ありふれたものの1つとなるでしょう。企業は柔軟性をもってこれを受け入れるべきです。
生成AIのバリューチェーンは進化しています。ML OpsやAI Opsの価値を高めるために、多くの基本モデル、革新的なアプリケーション、インフラが続々と登場しています。
チームが検証し、マーケティング業務向けのAIプラットフォームの構築ができるよう、サンドボックス環境を準備しましょう。企業は、柔軟性をもって生成AIに向き合い、さまざまなツールを採用することで、常に進化の最前線を歩くことができます。