IT組織は、これまでシステムのコスト削減や保守に重点を置いた受動的な役割を担ってきましたが、VUCA時代の不確実性の高い経営環境においては、迅速かつ柔軟な対応が求められます。
本稿では、IT組織が経営戦略にどのように貢献し、積極的な変革を進めるべきかについて探ります。経営層の理解とレガシーシステムの問題を克服し、企業全体の変革を推進するための方法を提案します。
IT組織はかつて、人件費や開発コストの削減といった、ITシステムの守り手として受け身の姿勢が常態化していました。しかし、不確実性が高まる現代の経営環境において、企業が生き残るためには、変化に対する俊敏性と弾力性を高めることが不可欠です。VUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)という概念が重要視され、これらの要素に対応するスキルやマネジメント・リーダーシップが求められています。
専門家集団であるIT組織は、デジタルの知見を活かした経営戦略やビジネスへの貢献が期待されています。ITは本来、ビジネスや企業活動への貢献を目的としており、そのためにIT組織は自らの意志を持ち、積極的に変革を推進していくべきです。
ただし、IT組織の変革にはそれを妨げる要因が存在します。特に重要なのは、経営面とレガシーシステムの問題です。
経営面では、「IT投資の理解が得られず、実行不可能な理由を並べ却下される」ケースや、「ビジネス部門が強力で、会社としての統一指令が出せない」などの状況は、徐々に減少しています。しかし、経営層が理解を示すようになった今、DX人材を活用して社内デジタル化を推進しても、実際に効果が見られる例はまだ多くないのではないでしょうか。もしかすると、推進の方向性が明確でないために人材の活用も曖昧な状況かもしれません。
一方、レガシーシステムは多くの場合、運用に制約があります。2000年前後にベンダー依存で構築されたシステムはモノリシックかつ、ブラックボックス化しており、大きな負担となっています。システムを軽量化すれば、より柔軟な運用が可能になると考えられますが、現状では保守・運用に多くの時間が費やされ、戦略的な対応が遅れています。さらにはこのようなシステムを与えられたものと捉え、積極性が損なわれている企業も見受けられます。
2000年当初、CRMやSOAなどの用語が流行しましたが、組織横断レベルの経営戦略の必要性が改めて認識されています。最近では、DX人材の採用がLOB(Lines of Business)で積極的に行われていますが、日本の従来のサイロ型組織構造が変わらないため、デジタル化や価値提供が自部門内に留まってしまいます。しばしば見落とされがちなのは、Issue drivenなアプローチの重要性です。B2Cでは顧客、B2Bではクライアントのライフサイクルを十分に考慮したソリューションをデジタル手法で提供することが求められます。部門間の壁を取り除き、各ターゲットに対するIssueを明確にし、ターゲットをDX施策の単位として活動することが必要です。しかし、日本の企業は組織を横断するプロジェクトの立ち上げに苦手意識があるため、経営層やリーダーシップによる明確な指示とそれを克服する全社一丸の意志が必要です。
マネジメントとしては以下のポイントを押さえることが重要です。
・Issue driven:
セグメント化されたターゲット顧客のそれぞれのライフサイクルと発生し得る課題が定義されており、課題とIT施策自体が対応づけられていること。また、ビジネス効果も想定されていること。
ターゲット顧客を中心に組織されたチームとワークフォースが整備されていること。そして、既存の組織(提供商品やシステム機能によって分けられた組織)によるサポート体制が整備されていること。
DX人材とIT要員のDX化に向けて会社として目指す方向性を明確にすること。また、各部門・各人材がIssueを解決するという目標に向けて連携するための仕組みと文化が醸成されていること。
アジャイルプロセスを積極的に採用し、失敗や計画変更に対して寛容で柔軟な対応が可能となっていること。効果的なプロセスが検討・導入できるようアジャイルCoE(Center of Excellence)が設置されていること。
最終目標(プロジェクト憲章)を常に意識し、方向性をモニタリングする仕組みができていること。
レガシーシステムの近代化においては、小さく繰り返し、効果を確認しながら推進することをお勧めします。クラウドリフトも有効ですが、早期の効果を創出するためには、アプリケーションモダナイゼーションも含めて検討するケースが多いです。まだ含めていない企業は、ぜひ計画に含めてください。
技術トレンドを追うことも必要ですが、生成AI、ローコード・ノーコードなどの新しいテクノロジー、コンセプトが台頭する一方で、それらを取り入れるだけが答えではありません。ビジネスに直結するITシステムであることを考えると、ビジネス戦略と整合したIT戦略、すなわち「Grow the Business」と「Run the Business」に合わせた全体感を持った意味のあるITを構えておくことが最も重要です。前述の経営判断と常にバランスをとることで絶大な効果を発揮すると考えます。また、各システムの位置づけを整理したら、位置づけにアラインするよう、それぞれのシステム構造・移行手法について徹底的にこだわっていただきたいです。
近代化の中でも、アプリケーションモダナイゼーションの要諦は以下の通りです。
モダナイゼーションは非常にコストがかかる活動であり、いくつもの手法がある中、意味のあるモダナイゼーションを選択して欲しいです。(Grow the Businessにはマイクロサービス化による機動力最大化、Run the Businessにはコードマイグレーションによるコスト効果最大化 等)
変革の壁を克服したIT組織は、革新性と柔軟性を兼ね備え、社員が働きがいを感じ、生産性が向上し、イノベーションを生み出すことができます。また、外部から見ても魅力的な組織像を形成し、優秀な人材を引き寄せる要因となるでしょう。
そのような変革をもたらすために私たちはお手伝いいたします。