臨床試験における規範や義務は非常に複雑で、複数のチェックを通り抜けた成功事例としての臨床試験結果だけが、検出や診断、栄養補給、治療に用いられる医療機器や医薬品の有効性を保証するものとして認められる仕組みになっています。したがって、厳格なルールや地政学的規制は、臨床試験プロセス全体において高い拘束力を持ちます。加えてさらに難しいのは、それぞれの組織は、臨床試験を行う上で独自のスタンダード(標準)を持つということです。こうした現状のため、この多様な在り方を簡易化する目的で臨床試験プロセスに関わるステークホルダーが業界の共同体を結成し、これによって臨床試験の共通のスタンダードを策定しました。しかし、スタンダードそれ単体では、取り組みの最適化を望むことはできません。システム間で正しい情報源からのデータを繋ぎ合わせ、再利用可能性によって標準化の取り組みを成功に導く上では、機能的なメタデータレポジトリ(MDR)が必要なのです。本記事では、業界が直面している主なふたつの課題について、また適切に構築されたMDRがこれをどのように解決するかについて解説します。
企業により複数の取り組みが行われており、これによって様々なスタンダードが生まれましたが、多くはサイロ化された、不揃いのものとなっています。こうしたスタンダードは個々別々に維持・発行されています。その一例が、データ収集におけるClinical Data Acquisition Standards Harmonization(CDASH)やデータ送信におけるStudy Data Tabulation Model(SDTM)、データ解析におけるAnalysis Data Model(ADaM)などです。こうした個々のスタンダードは、互いにリンクしているにも関わらずバージョン管理は同期がとられていないため、例えばCDASHの新たなバージョンはSDTMに大きな影響を与える可能性があるというように、なお課題となっています。また、バージョンの更新を試験レベルで分析することは面倒で時間がかかる作業であり、時間が限られているような場合にはこれも問題になります。新たなリリースがある度に、その新たなリリースにおいて特定の項目を入れるべきか否かの判断が必要なとき、スタンダードにおけるバリエーションの存在が事態を一層複雑にしてしまいます。バージョンの更新は時間と労力がかかるプロセスであり、複数部門に跨がるステークホルダーの協力が必要にもなります。このような現状について、テクノロジーはユーザーフレンドリーな比較レポートを提供することで労力を削減し、バージョンアップに伴う問題を迅速に解決できると期待されます。
標準化におけるふたつめの大きな課題は、その再利用可能性とガバナンスです。スタンダードの利用を維持・延長する2つの要因は、スタンダードを再利用して臨床試験の迅速なセットアップを行える自動化の範囲と、堅牢なガバナンスフレームワークの展開です。
スタンダードを導入する場合、すべてのユーザーから等しくサポートが必要になります。しかしユーザーは通常、頻繁に行われるアップデートに注意を払っていないため、スタンダードを用いる上で消極的であったり、無頓着であったりするものです。その結果、ワークフローとガバナンスのプロセスが合理化されていない場合、ユーザーが規則から逸れて勝手な振る舞いをするようになり、スタンダードを維持することが難しくなります。
ここで、MDRがこうした標準化の課題を解決する上でどのように役立つか見ていきましょう。
堅牢なガバナンスのメカニズムにより、対象となるオーナーが必要な全てのデータポイントを利用することが可能となり、これによって変更を受け入れるか否か、十分な情報を元に判断することができるようになります。