「ダウンタイムの呪縛」を解く第三の道 BLUEFIELD™
―― S/4HANAマイグレーション最新動向
日本TCSでは2017年より、来るべきS/4HANA化の時代を見据えていち早く専任部隊を立ち上げ、お客様のERP刷新をお手伝いしてきました。この間の数々のイベント講演、また100社を超える企業訪問を通じて、改めて浮き彫りになったS/4HANA化に関する”気づき=お客様の肉声”があります。それは、「ダウンタイムの呪縛」です。ダウンタイム最小化に向け新たに登場した有効な選択肢をご紹介します。
S/4HANAマイグレーションついては従来から、Green Field(再構築)とBrown Field(コンバージョン)という、極端に異なる2つのアプローチの選択として語られてきました。改めてこの2つのアプローチを比較すると、以下のようにまとめることができます。
企業訪問を通じて、あくまで日本TCSとしての見解ではありますが、昨年終盤から、再構築アプローチでのS/4HANA化の本格検討が一部で進み始めたと実感しています。
ここでは、比較的早い段階でSAPを導入された、所謂”アーリーアダプター”と言われる大手製造業のお客様の例を挙げます。メインフレームベースの基幹系システムの機能をSAPで継承した結果、本質的なSAPの活用方法と大きく異なった、アドオンの極端に多い異質なシステムとなってしまい、また当時の狙いであったBPRも多くは実現されませんでした。このような事象については、JSUGのニッポンのERP再定義委員会がまとめた「日本企業のためのERP導入の羅針盤」の中で、極めて興味深い、洞察力にとんだ分析がなされています。
また多くのお客様では、長く続いた厳しい経営環境の中、大きな改修の機会がないまま当時のSAPシステムが生き永らえ、かつシステムを支えるIT部門も世代交代を図ることができない状態で、ほぼ20年が経過しました。
「SAP2025年問題」は、こういったデッドロック状態にあるSAPシステムやIT部門にとって、良し悪しは別として大きな一石を投じる結果となりました。
TCSでは、グローバルでのSAP導入経験と知見をベースに日本の独自性を加味し、S/4HANA関連のオファリングを用意しています。
再構築アプローチで大切なのは、まず”Fit to Standard”の実現です。そこで日本TCSでは、計画フェーズに特化した新しいオファリング「S/4HANAビジネス・トランスフォーメーション・プラニング」を立ち上げました。S/4HANAの標準機能を最大限活用しBPRを推進、併せてペースレイヤリング視点から業務やシステムの用途に応じてS/4HANA以外も含む複数のソリューションを組み合わせ、新しいシステム・ランドスケープ像をデザインします。また、S/4HANAへの機能強化にあたっては、最新のSAPのアプローチであるSAP Cloud PlatformでのSide by Side開発が柱になります。日本TCSは、この分野についても実際の導入プロジェクトでの経験を通じて、スキルと勘所を蓄積してきました。
日本TCSはこれらの組み合わせで、Fit to Standardから始まるお客様の再構築アプローチを力強く支援します。
前述のとおり、一部のお客様で再構築アプローチの動きが確認されている一方、現時点でコンバージョン方式によるS/4HANAマイグレーションの検討を進めているお客様は極めて少ないと私たちは実感しています。コンバージョンアプローチではシステム機能面での変更はなく、必然的に低ROIとなります。このため、一般的には経営陣に対する訴求力が弱いと言われており、私たちもコンバージョンの選択が進まない一因ではないかと考えています。
再構築アプローチに舵を切ったお客様は別として、まだ多くのお客様はSAPの継続利用ですら方針決定されていません。これらのお客様の一部は、今後1、2年のうちに再構築アプローチを選択されるケースもあるかも知れませんが、その多くは2025年のデッドライン間際になって消極的選択としてコンバージョンアプローチを採用されると推測します。こうしたお客様は、比較的最近(2000年代後半以降)にSAPを導入され初期投資後間も無く、またSAP導入に関するユーザーおよび導入パートナーの知見・経験がそれなりに蓄積し、アーリーアダプターと比較してスマートなSAP導入が図られている、と私たちは分析しています。この観点から考えると、コンバージョンアプローチの選択は理にかなったものでもあります。
このコンバージョンアプローチですが、以前から指摘されていた低ROIに加え、最近のお客様訪問で特に新たに課題と認識したのは「ダウンタイムの呪縛」です。
前述のアプローチ比較にある通り、現行SAPをシステム、データともに一括でS/4HANAに変換するコンバージョンアプローチを選択する限り、多ステップ、ダウンタイム、不要データといった密接に絡んだ課題が発生することは、必然的な帰結です。当社システムの事例では、DBサイズ300GB 程度でダウンタイムは約60時間(2.5日間)。DBサイズが大きければ、比例的に時間がかかります。
加えて、S/4HANA化にあたりNewGLの新機能――ドキュメント・スプリッティング、セグメント・レポーティング、バラレル・レポーティング等――を活用したい場合には、会計年度が切り替わるタイミングに合わせてコンバージョン作業を完了させる必要があり、移行時期に制約が課されることになります。
これらの課題を克服するS/4HANAマイグレーションの新しい選択肢――第三の道――として、海外を中心にBLUEFILED™ソリューションによるアプローチが注目されています。
ドイツに本社を持つSNP社は、1994年創業のSAPシステムのデータトランスフォーメーションにフォーカスしたプロフェッショナル集団です。ユニコード化やECC6.0対応、またインスタンス統合・分離などSAPシステムの進化にあたりデータに着目したソリューションを提供してきました。コアとなる技術がSNP’s Transformation Backbone Architectureです。
このコア技術を、前述のS/4HANAコンバージョンアプローチの課題克服に向けて応用したものがBLUEFILED™です。
BLUEFIELD™アプローチ
BLUEFIELD™ソリューションでは、まず”データ”と”システム”を分離します。データのない状態のシステム「エンプティ・シェル」(ERPソース、コンフィグ情報、アドオン)を生成し、まずシステム部分のみ一足早くS/4HANA化を実施します。本番システムは並行して稼働させたまま、業務時間帯にS/4HANA対応のアドオン改修やテスト等の作業が行われます。その後、差分管理機能を活用し、データ部分を複数回に分けて移行することで、ほぼダウンタイムゼロを実現します。
データ・アーカイブやアップデート(サポートパッケージやエンハンスメントパッケージ適用等)を長らく実行していないSAPユーザーで、かつ保有データが1テラバイトを超えているようなケースでは、コンバージョン作業には数日必要になります。ダウンタイムを一日にしたい場合は、ステップを数回に分けての作業となり、コストと作業負荷の両面で影響は大きくなります。
TCSはグローバルでSNP社とのパートナーシップの強化を図っており、実際のBLUEFILED™ソリューション導入にあたっては、TCSがプライム導入ベンダーとしてSNP社専任コンサルタントと連携を図りながらプロジェクトを包括的にリードします。特に重要なポイントは、対象インスタンスの特性を踏まえたコンバージョン方式を選択することです。
ダウンタイム等の懸念が少しでもある場合は、まずアセスメント段階でコンバージョン(Brown Field)とBLUEFIELD™の双方を視野に入れた多角的な検討、評価を行います。どちらのアプローチを選択する場合も、導入プロジェクトにおいては「ファクトリーモデル*」、稼働後の運用保守についてはAIやチャットボットなどの先進ITを活用して人手を代替する「マシンファースト・デリバリーモデル*」による次世代AMSなど、他のTCSソリューションとシームレスに連携し、ライフサイクル全体にわたる効率的で低リスクなS/4HANA化を実現します。特に二桁以上のインスタンスを保有する大規模ユーザーにとって、アセスメント段階から適切なアプローチを選定する包括的な取り組みは、2025年までの計画的・段階的な移行計画検討にあたっての最重要ファクターです。
2025年を間近に控えた”駆け込み型コンバージョンアプローチ”が現実味を帯びる中、TCSはBLUEFIELD™アプローチがより広い、現実的な選択肢を提供できると確信しています。
▶「ファクトリーモデル」、「マシンファースト・デリバリーモデル」についてはこちらをご一読ください。