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◇ロンドンで知った「季節性感情障害」をテクノロジーで解決したい
水上さんは、東京大学大学院情報学環・学祭情報学府に在籍しています。インターンシップは、TCS COIN の取り組みで2023年5月に開催された社内セミナー「第1回 COIN Talk」に登壇したペニントン・マイルス教授に勧められたと言います。
「大学ではヒューマン・コンピュータ・インタラクションを研究し、今年からは大学院でAR(各超現実)やVR(仮想現実)の研究をしています。大学院で授業をとっていたマイルス教授の勧めで今回のインターンシップを知り、自分がもともとやりたかった、メンタルヘルスについて人の感情を可視化するようなプログラムの開発を試せると思って応募しました」
海外在住経験が豊富な水上さんは、高校時代にイギリスに住んでいた頃、日光にさらされる時間に応じて現れるうつ病の一種である「季節性感情障害」を知りました。自分自身も周囲の人たちも悩まされていることを知り、「どうにかしてテクノロジーで解決する方法があるのではないか」と考え、研究テーマにしたいと考えていたそうです。
「いざ研究しようとすると、テスター(テストする人)がいなかったり、大学の倫理上でテスト自体ができなかったり、大学では適切な環境がなく開発できませんでした。そこで今回、試験的な意味でプランを提出しました。」
季節性感情障害は、一般人口の約8%が罹患しているとされますが、治療法はまだ確立されていません。水上さんはインターンシップの機会を利用して、治療用に社会的に受け入れられるロボットを開発しようと取り組んでいます。
「インターシップを始めてから、インドにいるメンターとコミュニケーションを絶えずとることができています。結果がどうなるかはわからなくても、チャレンジして行く体制が整っていて、自分では挑戦してよいかわからなかったことでも勧めてくださいます。
最初の段階では、データがどこにあるかなどで躓いていますが、インターンを通じて治療の助けになるようなプログラムを書ければよいなと思っています」
水上さんの取り組む姿勢に、メンターたちは「とても積極的で期待している」と口を揃えています。1カ月でどのような成果を得られるか、水上さん自身も成長を楽しみにしているようでした。
◇大学院での専門テーマを社会実装できるように研究したい
上原さんは東京大学工学部機械情報工学学科を卒業後、現在は同大学大学院で機械情報工学を専門としています。今回のインターンシップは、自身のテーマに合致したロボティクスについて研究できることに興味を惹かれたと言います。
志望時に提出した計画書には、盗難防止を目的とした複数の制御システムがある「スワームシステム」を導入した監視カメラのロボットを研究テーマとして掲げました。
「大学では理論などが中心になりますが、インターンシップでは、企業の中でどのように開発されていくかを知る機会になると思い志望しました。特に、今の自分のテーマでどのように社会実装できるかを研究したいと思いました」
日本TCSの神谷町オフィスを会場にしたインターンシップでは、基本的には各自のペースで独自に研究を進めていますが、自由に話し合える環境でもあり、刺激の連続だと言います。
「まず、最新の技術にキャッチアップできるところが刺激的ですね。メンターの方からも、他のメンバーからも、たとえばトラッキングについての新しい技術など、今まで知らなかった手法について教わることもあります」
テーマは違ってもコミュニケーションが活発に行われていることが、大学での研究と違う点だと言います。
「自分のテーマによるのかもしれませんが、大学では一人で進めることが大半です。でも今は6人がその場に一緒にいて、いつでもディスカッションできる環境です。お互いに得意なところを活かして、その場で協力して物事が進められています。この経験は、これからの人生にも大きなプラスになりそうです」
上原さんは、今回の6人のインターン生のうち、唯一、英語圏や海外での生活経験がありません。そのように見えないほど英語を流暢に使いこなしていますが、インターンシップの1カ月間は、英語力のさらなるブラッシュアップの機会としても活かしたいと言います。
「今の目標は、最終発表をしっかりできるように、研究も語学も上達させること。いろいろなアドバイスをいただきながら進めていきたいと思います」
◇介護者のストレス緩和になるようなロボットを研究したい
三木さんは高校時代を香港で過ごし、現在は慶應大学環境情報学部に在籍してコンピュータサイエンスやAI、量子コンピューティングの研究に取り組んでいます。今回のインターンシップは、大学の先輩に勧められて応募したと言います。
「以前から、将来的には国際的な環境で働きたいと思っていて、研究室の先輩から紹介を受けて興味を持ちました。TCSについてあまり知りませんでしたが、最先端の技術があるグローバル企業だとわかり、ビジネス経験を積みたいと思いました」
研究のテーマには、今後予想される介護士不足に備え、介護者へのストレス緩和に注目しました。「自分の祖父が老人ホームに入っているとき、介護している人の大変さを見て何とかしたいと思った」という経験も背景にあったと言います。
「これから日本は超高齢化社会を迎えますが、介護をする仕事への注目度は低く、介護士のストレスやワークライフバランスに影響するのは確実です。介護者向けのロボットもありますが、多くの介護施設で導入するにはコストもかかります。それでもテクノロジーで解決できることはさまざまあると思い、人間にとって身近に感じられるロボットについて研究したいと思いました」
インターンシップを始めてからは、異なる専門知識のあるインターン生6人とのコミュニケーションを楽しんでいます。
「やっぱりグループでできるのがいいですね。いつも楽しみながら進めています。途中で聞きたいことがあった時にメールで急に送っても返してもらえるし、何かを聞いてもみんなが答えてくれます」
国籍が多様で、過ごしてきた環境も違い、現在の研究分野も異なる6人が同じ場にいることで、それぞれの専門知識を持ち寄って解決することができるのはインターンシップならではの利点です。それだけではありません。
「大学では論文を一つずつ読んで研究を進めますが、ここではすぐに『どうなるか? やってみよう』となります。まずは手を動かし、すぐにロボットを動かしてみようという流れになって、根本的に考え方が違うなと思いました」
実務の現場で研究を進められることが大きな学びになっているという三木さんは、ロボットがしっかり動くように研究を進めたいと意気込んでいます。
◇人の感情を理解するロボットを開発して、教育現場にテクノロジーを普及させたい
インドネシア出身のハーディーさんは高校卒業後に来日し、現在は慶應大学の総合政策学部で教育分野の研究をしています。
「今は大学3年目で、母国語以外の第二言語に関する教育の研究室にいます。私自身の興味は、教育政策やカリキュラム開発など幅広くあります。7歳から12歳までの子どもたちを対象にした英語の指導や、慶應大学の英語のカリキュラムの改善にも携わりました。教育にテクノロジーを取り入れるEduTechの分野に、今一番関心があります」
英語教育の現場指導からプログラム開発まで、最新技術を用いた効果的な学習環境について研究を進めているハーディーさん。インターンシップに応募したきっかけは、大学の授業だったと言います。
「ある授業で、インドの文化を学ぶ機会がありました。その時に今回のインターンシップを知り、テクノロジーのバックグラウンドがなくても挑戦できるとわかり、とても興味を持ちました。自分の専門を活かし、教育分野で役立つロボットの開発に挑戦したいと思いました」
現在、EduTechとして学習管理システムや学習アプリ、オンライン学習プログラムなどの利用が増えていますが、今後は、人とコミュニケーションを図る協働ロボット(コボット)の活用も期待されています。コボットがあれば、教育現場での学習支援が大きく発展する可能性があり、教える側・学ぶ側の双方にとって使いやすい教育プログラムができます。
「コボットの研究には、コボットと人間との相互コミュニケーションに焦点を当てる必要があります。そのためにはデザイン思考のアプローチが有効だと考えています。関係者のニーズなどを深く掘り下げるためにアンケートやユーザビリティテストなどを行い、さらに検証し、ユーザーのフィードバックに基づいた改善もしていく必要がある中、そうしたことを低コストでできる最小限の機能を備えたロボットを開発していきたいと思っています」
自分自身にテクノロジーのバックグラウンドがなくても、教育現場の将来を考え、効果的なプログラムを構築したいというハーディーさんにとって、他のインターン生の専門知識が学びになるとも加えます。
「ロボティクスや技術的なことを他のインターン生が教えてくれるおかげで、自分のアイデアがどんどん広がっていきます。そのために今、何に焦点を絞るか考える必要があるかがわかってきました。今は文献のリサーチを始めていますが、来週は調査やインタビューなどを通じてテストモデルについても考えていきます」
多国籍のインターン生がいる環境で、文化の違いも楽しんでいきたいというハーディーさん。「休み時間やランチタイムの時間も楽しみたい」と笑顔で話してくれました。
◇ロボットの普及のために、政財界の経営層にインタビューを
中国出身の趙さんは、中国やイギリスの大学で財務や会計などを学んだ後、現在は慶應大学大学院の総合政策学部に所属しています。
「もともとファイナンス系の専攻で、今は気候変動や災害における危機管理など、SDGsや持続可能な社会についての研究をしています。ロボットに関する知識はありませんでしたが、教授から勧められて挑戦しようと思いました」
自分にとっては「コンフォートゾーンを超える挑戦になると思った」と言いますが、趙さんのお兄さんが、タタ・グループの会社に勤務し、ハイテク分野で活躍していることから、同じタタ・グループのTCSでのインターンシップには興味を惹かれたとも言います。研究テーマには、高齢者向けロボットの開発を選びました。
「日本も中国も、これからさらなる高齢化社会を迎えますが、日常生活でのロボットの活用はまだ限られています。この先、ロボットがより人間らしく、アクティブに振る舞い、さらに手ごろな価格帯で普及していくには、今後の実現性について政財界の人たちにインタビューする必要があります。政府やIT企業の経営層にインタビューを行い、ロボットの普及に関する重要性や目標、課題を明確にしたいと思っています」
インターンがスタートしてからは、メンターやインターン生からのアドバイスを受けながら、意識調査の準備を進めていると言います。
「今は、主に文献を調べており、メンターからは誰にインタビューをすると良いかアドバイスをもらったり、過去の事例に詳しい人を紹介してもらったりしています。まだ技術的な開発にはたどり着いていませんが、今まで周囲でロボットなど技術に詳しい人がいなかったので、とても興味深く感じています。これまで研究してきたファイナンスの知識を活用して、最終プレゼンに向けて調査を深めていきたいと思っています」
インターン生同士でのランチタイムや休憩時間での会話も楽しみにしているという趙さん。専門分野を活かした独自の視点からロボットについて調査し、最終プレゼンまでに形にしていきたいと話していました。
◇小売業での万引き対策に、監視センサー搭載のロボットを開発
ベトナム出身のタンさんは2016年に来日し、大学で航空宇宙工学を専攻しました。その後、民間企業でドローン開発などの経験を積み、現在は東京大学大学院のシステム創成学を専攻してロボット工学を専門としています。
インターンシップは大学の掲示で知り、自身の研究テーマに合っていただけではなく、「TATA」のロゴにも興味を惹かれたと言います。
「チェスの世界大会でタタのロゴはよく目にしていました。大学でポスターを見て、『あのタタのグループでインターンできるのか!』と思うとすごくワクワクしました。内容も自分のやってきたことを活かせるので、応募しようと決意しました」
タンさんの言うチェスの大会とは、タタ・グループの一社であるタタ・スティール社がスポンサーシップ活動を行う「タタ・スティール・チェス・トーナメント」のこと。チェス好きなタンさんは毎年同大会を楽しみに見ていたと言い、グローバル企業での経験を積めることに期待を膨らませて応募しました。
「応募の際には、コンピュータービジョンを利用した監視ロボットを研究テーマに掲げました。高齢化社会が深刻になる上で、道路のメンテナンスがいまだに人の手に頼られていることに課題を感じ、道路の亀裂や異常を感知し、ディープラーニング技術搭載の監視カメラがあると役立つと思ったからです」
インターンシップが始まった直後、大学での研究と違い、企業ではお客さまの課題を解決するために技術を開発していくことに気付かされたタンさん。当初考えた監視カメラのアイデアを、TCSでの事例が多い小売業での課題解決に役立てようと考えました。
「各店舗では万引きが課題となっていますが、陳列棚を監視するロボットがあれば、万引きを防止できるのではないかと考えました。これから文献を調べたり、メンターにアドバイスをもらったりして、監視用センサーのアルゴリズムなどを研究していこうと思います」
AIやドローンなど、ロボット開発の経験があるタンさんは、専門分野の異なるインターン生とのコミュニケーションを通じて視野を広げられることも楽しみだと言います。
「休み時間には、たとえば今日の天気の話など他愛のないことも話しますが、いろいろな国で生活していたインターン生との会話はおもしろい。たくさん議論したいと思っています」
研究中の真剣な表情とは対照的に、休み時間にはジョークも交わすタンさんは、インターン生の中でもムードメーカーのような存在です。
個性豊かな6人がどのような研究を進めるか、次回は中間発表やメンターからのコメントを紹介します。