転職市場で、引く手あまたのIT人材。そんな状況下で、多様なバックグラウンドの社員を集めるのが、タタ・コンサルタンシーサービシズ(TCS)の日本法人、日本TCSだ。
TCSは、インド最大の財閥タタ・グループから誕生したグローバルITサービス企業。全世界の社員数は60万人に上り、日本法人で働く社員の3割はインド人。
グローバルで培ったITの知見を総動員し、ビジネスにかかわる多様な課題解決に挑む。
その働き方や組織カルチャーをひもとくと、見えてきたのは「自由なカオス」というキーワード。
その真意とは何か。インド発のグローバル企業だからこそ得られる経験と成長とは。最前線で活躍する3人のエンジニアへのインタビューで読み解く。
面接の余り時間で出された問題とは
──それぞれ専門領域で研究実績や実務経験を持つ皆さんが、なぜインド発のSIer(システムインテグレーター)である日本TCSを選んだのか。まずはその理由を教えてください。
三澤 入社の決め手は、面接で感じた自由な雰囲気でした。というのもインド人の面接担当者が、時間が余ったからといって、数学の問題を出してきたんですよ。手元にあった紙に数式を書いて(笑)。
フランスの大学院で博士課程を取得していたこともあり、就職活動では日本的な「型」にはまった企業ではなく、自由で柔軟性が高い社風の会社を見ていました。
「面接でいきなり数学の問題を出してくるなんて、きっと型破りな会社に違いない」と直感し、入社を決めました。
並河 私は大学院の修士課程で、量子コンピューティングの研究をしていました。もちろん博士課程に進む選択肢もありましたが、研究の成果は短期的には見えづらい。
企業に所属して、自分の専門性を活かしながらお客様のビジネス上の課題を解決する方が、私にとってはやりがいを感じられそうだと、日本TCSへの入社を決めました。
北沢 この中で私は唯一の転職組で、アメリカの数値解析ソフトウェア会社から、昨年転職してきました。その会社は、アメリカの会社でありながら日本人が多い環境だったんです。
幼い頃から海外生活が長かったこともあり、環境が日本的過ぎて少し窮屈と感じ、それが転職を考えた理由の一つです。
その点で、日本TCSは、社員の約3割がインド人で、女性比率も4割弱とITサービス企業にしては高い。多様なバックグラウンドを持った人材が在籍しているので、「人によって考え方が違っていて当然」という前提が共有されているのは、とても魅力的に感じました。
三澤 私も、日本TCSのダイバーシティ性には惹かれましたね。やはり同じ属性で固まっていては、思考の幅が狭まってしまう。
それよりも、多様な価値観を持つ人たちがいる環境に身を置いた方が、自分も成長できるし、面白いものをつくれそうだと感じたんです。
自分の仕事は、見つけに行く
──社員の3割はインド出身の方なんですね。かなりグローバルな社員構成ですが、実際に働く環境はどうですか。
北沢 私の場合、毎日のようにインドのエンジニアとコミュニケーションしながら働いています。
システムインテグレーターは通常、プロジェクトごとにチームを編成するのですが、日本TCSの特徴は、それが日本と海外メンバーによる混成チームであること。
「海外側は開発」「日本側はマネジメント」という区分も必ずしもなく、プロジェクトごとに最適な人材を、国籍に関係なく適材適所でアサインするんです。だから、日本と海外メンバーの割合も決まっていません。
たとえば、私が専任で携わっているユーティリティ大手企業の発電所の運転効率を向上するプロジェクトでは、インド人が十数人、日本人は私を含めて2人という編成です。
並河 グローバルであることに加えて特徴的だと思うのは、60万人規模の会社にもかかわらず、部署間の垣根がびっくりするくらい低いこと。
「この部署に所属しているなら担当領域はここ」などの決まりごとが少ないから、組織横断でチームが編成されるんです。
実際に私も、上司に「量子コンピューティングに関わりたい」と話していたら、それを聞いた別の方がプロジェクトに誘ってくれて。
主体的に発信をしていれば、自分次第でいかようにも仕事の幅が広がる環境だと思います。
三澤 わかります。私は、大手保険会社のプロジェクトで、保険業界に特化した生成AIの開発を担当しているのですが、そこでも「こういうスキルの人材が欲しいな」と思ったら自分で社内のメンバーに声をかけて、適切なメンバーを集めています。
その方の上司にはリソース等の確認はするのですが、「承認を得る」という感覚ではないですね。
おそらくマネジメントも「社員を管理している」という感覚は薄くて、一人ひとりの意思や主体性が最も重視されていると感じます。
実際、このプロジェクトは関わり始めて3年が経つのですが、当初は大型建設機械(ショベルカー)の挙動を判定するアプリ開発など、いまの開発内容とは全く違うものでした。
そこからお客様との信頼関係を築いて、「別のこのプロジェクトもぜひ一緒にやりたい」とお客様と対話を重ね、自分の仕事の幅を柔軟に広げてきました。
「上司から与えられた仕事をやる」のではなく、「主体的に自分の仕事を見つけに行く」文化があり、その感覚が楽しい。いまでは、やりたかったデータ分析の仕事も任せてもらえています。
ビジネス英語は半年で習得
北沢 一方で、自由過ぎる弊害もあるとは思いますけれどね。
入社当初は、自分は誰にマネジメントされているかもよくわからず、「誰に何を聞けばいいの?!」と戸惑っていたのを覚えています。
そういう意味で、「自由だけどカオス」な側面もあるなと(笑)。
並河 確かに(笑)。自由でフラットな反面、「自分で何とかしなさい」という意識は求められていると感じます。
私は入社して割とすぐに、インドの開発拠点とのコミュニケーションが多い運用保守プロジェクトにブリッジエンジニア(注)として配属されたのですが、そこでその意識はかなり鍛えられたと思っています。
ブリッジエンジニアの立場では、「今すぐバグを直してほしい」との切羽詰まった日本のお客様と、「ちょっと時間がかかってもいいじゃない」と主張するインド人開発者の間を取りもたなければいけません。
「完璧な英語を…」なんて悠長なことは言っていられず、とにかく伝わるように必死でコミュニケーションしていました。
(注)異なる文化・言語のプロジェクトメンバーに対して開発を依頼し、プロジェクトの進捗管理やプロダクト(納品物)の品質管理を行なうエンジニア
その臨場感ある現場で実践を積んだおかげで、半年も経てばビジネス英語は扱えるようになりました。インド英語にも、だいぶ慣れましたね。
もちろん、トラブルの渦中で気を揉むことも多いのですが、若手のうちから第一線に立って場数を踏めている経験は、自分の成長に大きくつながっていると感じます。
「何でも来い!」と思える強さ
──皆さんのエピソードが、入社して数年とは思えない濃密さで驚いています。そうした経験は、これからのキャリア形成にどう役立つと思いますか。
並河 私が日本TCSで得られた最大の強みは、何があっても挫けないバイタリティでしょうか。インド人とのタフな交渉を経験してきたいまでは、「もう何でも来い」って気持ちです(笑)。
また日本TCSに入ってから、自ら意思やアイデアを発信して「こんな仕事がやりたいです」と言えるようになりました。
さらに、「お客様のためにこうすべきではないですか?」といった問題提起も発信できる。ここで得た発信力は、今後のキャリアにも大きく活かせるだろうと思います。
北沢 仕事を進める上で、グローバルと日本との文化の違いを埋めていくのは、やはり大変です。だからこそ、コミュニケーションスキルはすごく鍛えられます。
たとえば、インド側は成功と捉えているプロジェクトも、日本のお客様はそう思っていないケースもある。その間に立つ私は、お客様に何が悪かったのかを具体的に聞き、インド側も同じ解像度で話ができるよう、根気強く伝えていくしかありません。
調整力と、どこに行っても怖気づかない強さは、この先のどんな仕事の場面でも生きてくると思っています。
──最後に、どんな人に日本TCSで働くことをおすすめしますか。
三澤 まずは、主体性を持ってフレキシブルに働くことが好きな人。逆に、「私はこの仕事しかやりません」といったタイプの人には、順応するのが難しいかもしれません。
また、ITのバックグラウンドを持つ人と働けるのは、やはり心強いです。ですが完璧なスキルを携えて入社しなければ、というわけでもありません。
新卒で入社して間もないメンバーにはビジネスマナー研修をはじめ、ITの最新知見をキャッチアップする研修や、英語を学ぶプログラムも豊富にある。
また、基本的な研修以外にも、所属部署やプロジェクト単位で必要なスキルに応じた研修が多岐にわたり用意されていて、一人ひとりのニーズに沿って学習できるんです。
仕事を自由に任せてくれる風土でありながら、意欲さえあれば学ぶ機会も揃っている。スキルアップして成長したい人には、とても良い環境だと思います。
北沢 個人的に感じているのは、日本企業でモヤモヤしている人は、日本TCSでイキイキと働けるのではないか、ということです。
これまでお話ししてきたように、日本TCSは一人ひとりの社員の主体性が重視され、ボトムアップで仕事を進められる会社です。
一般的な日本企業にありがちな、トップダウンで物事が決まり、社員は決められた仕事をこなす、という会社とは、真逆のカルチャー。
だからこそ、そういった風土の会社が肌に合わず、悶々としている方たちが日本TCSに来たら、水を得た魚のように活躍できるかもしれません。「自由なカオス」を楽しみながら成長できる人と、ぜひ一緒に働きたいですね。
制作:NewsPicks Brand Design
執筆:田中瑠子
撮影:小池大介
デザイン:Seisakujo inc.
編集:金井明日香