花王株式会社
SAP GTSの短期バージョンアップとグローバル展開を見据えたパイロット導入プロジェクト
SAP GTSの短期バージョンアップとグローバル展開を見据えた米国パイロット導入へのチャレンジ
花王株式会社様(以下、花王様)は、一般消費者に向け、化粧品やスキンケア・ヘアケアなどの「ビューティケア」事業、健康機能飲料やサニタリー製品などの「ヒューマンヘルスケア」事業、衣料用洗剤や住居用洗剤などの「ファブリック&ホームケア」事業を展開。また、「ケミカル」事業では、産業界のニーズに対応した工業用製品を展開しています。 こうした様々な事業分野で、消費者や顧客の立場に立った“よきモノづくり”を行うことで、世界の人々の豊かな生活文化の実現に貢献することを目指しています。その事業分野の一つであるケミカル事業では、幅広い産業の多様なニーズに応えるべくグローバルに拠点を持ち、油脂関連製品や界面活性剤、トナーなど多岐にわたる製品を取り扱っています。 各国にて化学物質管理のための規制が強化されているため、これら化学製品を輸出入する場合には、取引国の法規制の把握が欠かせません。
同社執行役員 情報システム部門統括の安部真行様は「当社の企業理念である『花王ウェイ』では“正道を歩む” ことを価値観の一つとして重視しており、コンプライアンスの強化に取り組んできました。一方でケミカル事業ではビジネス拡大とともに取引先・取引国が増大しており、法規制や懸念取引先などのチェックを随時かつスピーディーに行うためのオートマチックなシステムが必要でした」とプロジェクトを振り返ります。
花王様では、貿易における法規制管理を徹底するため、日本で2009年に貿易管理システムSAP Global Trade Services(GTS)を導入し、システム化を実現していました。一方で、海外拠点では基幹システムとの連携などが当時の技術では難しく、GTSではない個別のシステムと組織力でカバーしてきました。しかし、その後のITの進歩とグローバルな環境変化を受け、さらなるチェック体制の充実のため、GTSのバージョンアップおよびグローバル展開の検討に2015年から着手されたのです。
現場で、法規制のチェック・管理を担当しているケミカル事業ユニット事業推進部プロジェクトメンバー(GTS担当)の木浪ゆかり様は「グローバルな取引の拡大とともに、それに関わる各国の法規制は年々強化されています。そのため、ケミカルグループとしてシステムを使ってコンプライアンスを強化したいと考えていました」とその理由を語ります。
今回のプロジェクトに当たり、パートナーとして選定していただいたのが日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ(日本TCS)でした。SAP認定グローバルサービスパートナーとして、15,500人以上のSAPコンサルタントを擁するタタコンサルタンシーサービシズ(TCS)は、GTSの豊富な導入・バージョンアップ実績を持ち、花王様がビジネスを展開する世界各国に拠点も有しています。将来も見据えたサポートが可能なことをご評価いただき、日本TCSを中心にプロジェクトを支援させていただくことになりました。こうして取り組まれたプロジェクトは、貿易コンプライアンス違反リスクから「花王を守る盾」の意味を込めて「AEGIS(イージス)」プロジェクトと命名されました。
プロジェクトは、日本のSAP GTSのバージョンアップと、そのバージョンアップしたGTSの米国拠点への導入という、二つのミッションをこなす必要がありました。これは現場の要求のみならず「システム面でも意義があった」と、ビジネスシステム部 部長(SCM担当)の金田健一様は語ります。
「日本で稼動するシステムの海外展開は、当社にとって初の試みでした。従来、一つの仕組みで世界中をカバーするためには能力的にも困難でありましたが、ハードウエアやインフラの進化もあり日本のGTSの機能を強化した上で、今回は米国拠点にもパイロット版として同一システムを導入し、一つの仕組みをグローバルで活用する体制の整備に取り組もうと考えました」(金田様)
同じ仕組みの利用は、日本で培ってきたノウハウや新技術を、グローバルで一括導入しやすくなるなどのメリットが期待できます。この狙いを実現するため、日本でのバージョンアップと米国拠点へのGTS導入は並行して進められました。プロジェクトマネージャーとして、この複雑なミッションに挑戦したのが情報システム部門の山口和宏様です。
「バージョンアップでは、SAPシステムのIT 基盤であるBASIS を中心とした作業になります。一方で、米国でのGTS導入はアプリケーションの作業が主となるため、すみ分けは可能と考えました」(山口様)
国内のGTSは影響を考慮すべきレガシーシステムが少なかったため、アドオン開発を極力排除し、標準機能を最大限に活用する形でバージョンアップを進めました。
それでもシステムのバージョンアップには、連携するシステムに不具合を引き起こす可能性もあり、確実性が欠かせません。今回のプロジェクトでは、開発機、検証機、本番移行前のリハーサルの各段階で徹底的な検証を実施しました。併せて、検証を通じて取り組んだのが、本番移行時にシステムを停止するダウンタイムの圧縮です。移行データの大部分を事前に準備しておき、最新データを差分のみ移行するなど、TCSのノウハウを最大限に活用して移行に臨みました。
BASIS担当として主にバージョンアップに取り組まれた同部門の都倉政弘様は「当初30時間を見込んでいたダウンタイムをさらに短縮するために、作業ステップを細分化し当日にしかできない作業、事前にできる作業を分け、手順の前後を組み換えたことで、最終的に約13時間まで短縮できました。期間としてもスケジュール通りの3カ月で完遂でき、移行後も想定よりエラーが少ないなど、非常にスムーズなバージョンアップができたと受け止めています」と、その成果を語ります。
並行して米国で進められたのが、米国拠点の花王スペシャルティーズアメリカ(以下、KSA)へのGTSシステムの導入です。国内のバージョンアップと重複する期間に要件定義を進めることで、チーム内の負担分散にも配慮されました。
KSAでの導入プロジェクトのポイントの一つが、米国の法規制の取り込みです。「当社では化学物質のグローバルな法規制を管理・把握するシステムを別に整備しています。その情報を元に、さらに米国の厳格な法律にきめ細かく対応するため現地メンバーと連携し、米国GTSにおける法規制対応の徹底を図ったのです」(木浪様)
もう一つのポイントが、法規制がどの製品に影響するかなどのデータのひも付け・管理です。プロジェクトメンバーの一人である乙供一弘様はかなりのプレッシャーがあったと振り返ります。「データに不足があれば法令違反につながる恐れもあるだけに、法規制を担当するケミカル事業ユニット事業および関連部門と連携して万全を期しました」(乙供様)
加えてチャレンジされたのが、オンプレミスだったシステムのクラウド化です。 GTSをクラウド上に構築するだけでなく、クラウドサーバーを米国に設置。米国にはKSA以外にも花王USAなど複数の拠点があり、日本はもちろん、米国内のシステムとの連携も期待されています。
米国にクラウドサーバーを置くに当たっては、本番前に予期せぬエラーもありましたが、これらの不具合を丹念につぶした上で、KSAでのGTSシステムは2016年4月から稼動。重大な障害などが生じることもなく、順調なスタートを切っています。
今回のプロジェクトを終え、花王様には日本TCSの取り組みを次のように評価していただいています。
「バージョンアップで最も負担がかかるのは、本番機への移行です。事前の対応マニュアルの整備や、24 時間体制での本番移行など、日本TCSの取り組みに感謝しています。一緒にやりきったという思いです」(都倉様)
「米国でも本番化の1週間前から、日本TCSのメンバーには現地で共に対応に当たってもらいました。分担や具体的な作業など段取りの明確化を徹底してくれたおかげで、大きなトラブルもなく本番化を完遂できました」(乙供様)
「会社対会社というよりは同じチームとして、親身になってプロジェクトに取り組んでもらいました。TCSのグローバルメンバーとのブリッジ機能も発揮していただき、私もプロジェクトのコントロールに専念できました」(山口様)
花王様の情報システム部門では今回のプロジェクトだけでなく、多数のプロジェクトが並行して動いており、現場に寄り添ったきめ細やかな開発に取り組まれています。安部様は、それらのプロジェクトの中でも日本TCS の提案に期待していると言います。
「花王という会社のビジネスは今、グローバルに成長し続けています。その現場に必要な機能をタイムリーに提供していくのが、われわれのミッションであり、多数あるプロジェクトを今回のように形にしていかねばなりません。私もインドのJDC(*)を訪問する機会があり、TCSがグローバルに保有・蓄積している設備や機能は、当社のビジネスに大いに役立つものと感じました。日本TCSは、今回のプロジェクトを計画通りに完遂してくれましたが、今後の提案にもさらに期待しています」
* JDCは、TCSがインド・プネで2015年に設立した日本企業向け専用デリバリーセンター。日本TCS社員も多数常駐し、日本基準のサービスレベルと、グローバルで蓄積しているナレッジの融合を図る。
今回のプロジェクトで、当社は初めて花王様をご支援させていただきました。
グローバル体制で取り組むべく、GTSの豊富な導入経験を有するグローバルコンサルタントが日本でのプロジェクトチームに参画し、グローバル企業で活用されている最先端の知見を提供。さらにGTSの検証やデリバリーのため、インドにあるJDCを活用しました。
また日本TCSのメンバーらが技術者としてはもちろん、海外のTCSメンバーや、花王様の海外拠点のメンバーとのコミュニケーションの橋渡し役としても参加。花王様の求める品質と、それに応えた形でのTCSのナレッジが効率的に提供される体制づくりを行いました。
10カ月に及ぶプロジェクトでは、TCSのコンサルタントや日本TCSのメンバーが花王様の情報システム部門に常駐させていただいた他、米国への出張も常に付き添うなど、お客様と一体となって取り組んできました。私たちプロジェクトメンバーは、当初から花王様のプロジェクトに対する思いを強く感じるとともに、ワンチームとして受け入れていただいたことが印象に残っています。このため「大きなチャレンジに参加させていただいている」という高いモチベーションを持って最後まで取り組むことができ、貴重な経験と大きな達成感を得られました。
また、今回のプロジェクトは、花王様のビジネスへの理解の深化をはじめ、文化やルールなどに触れる機会にもなりました。これらの経験を、花王様のビジネスに貢献でき得るTCSの多様な知見や実績と組み合わせて、花王様の求める情報や技術を提供し、今後もパートナーとしてご信頼いただけるよう取り組んでいきます。
※掲載内容は2016年8月時点のものです