次世代のCX
現代の顧客は単に優れたサービスを求めているのではありません。適切で記憶に残り、没入感があり、高度にパーソナライズされた体験を求めています。自分自身を中心に据えた顧客体験を期待しているのです。
これには、商品の検討から購入、配送、そしてそれ以降に至るまで、事業のあらゆる場面におけるやりとりが関わってきます。また、従業員、パートナー、サプライヤー、さらにはコミュニティーなど、エコシステム内のすべてのステークホルダーとの関わりも重要です。そしてまた、多くの顧客がデジタルチャネルを通じて購買行動を開始することも念頭に置いておくべきです。当分の間、CXを適切に提供しているかどうかが、ビジネス成長、市場シェア拡大、収益の増加の鍵となるでしょう。
CX向上のためにデータを活用する
企業は、利用できるデータを最大限に活用し、インサイトを駆使して、顧客とより密接につながり、その行動を予測し、課題やビジネスの機会をリアルタイムで把握することを目指さなければなりません。
CX向上のために行われてきたさまざまな取り組みが、ビジネスのエコシステム内の全員に卓越したCXを提供するという次世代の到来、つまりExperience 4.0の実現へとつながっています。Experience 4.0は、デジタル技術の可能性を最大限に活かし、世界中の顧客に向けて価値を創造すべく作られたBusiness 4.0の四大行動原理―より多くの消費者に対するパーソナライゼーションの実現、エクスポネンシャルな(指数関数的な)成長を促す価値の創造 、リスクの容認、エコシステムの戦略的な活用―に基づいています。
CXの利点
顧客体験とは、カスタマージャーニー*1における全てのインタラクションやタッチポイントにおいて、顧客がブランドをどのように捉えるかというものです。このCXは、ブランド戦略がいかなるものであれ、重要な役割を果たしています。事実、2021年のTCS Global Leadership Study(TCSグローバルリーダーシップ調査) によると、1,200人以上の世界的企業のリーダー層が、今後2025年までの期間、企業文化として「顧客視点」を(株主価値や財務業績をしのいで)最重要事項に挙げています。
eコマース取引やカスタマージャーニーを個別に見るのではなく、顧客体験を全体的に捉えることが重要です。顧客エンゲージメントには、顧客が商品を検討してからその商品が配達されるまで、パートナー、ツール、さらには外部のエコシステムも含めた多くのステークホルダーとのやり取りが関わってきます。
例えば、消費者が高価な旅行プランを購入しようとする場合、その購入プロセスには、宿泊施設から航空会社、アトラクションに至るまで、多くの潜在的なパートナーやプレーヤーが存在し、大規模かつ複雑で、常に変化し続けるエコシステムが関わっています。どのようにすれば、顧客がすべてのステップで素晴らしい体験をし、ブランドのリピーターになってもらえるのでしょうか?また、どのようにエコシステムを活用すれば、自社の強みを確立できるのでしょうか?
CXの未来
Experience 4.0は、Business 4.0™から進化し、これまでの顧客中心のパラダイムを、ビジネスエコシステム内の全てのステークホルダーを含むように発展させたものです。企業が顧客と、さらにはより大きくエコシステム全体を理解すると、シームレスかつ高度にパーソナライズされた楽しい体験を、全てのステークホルダーに提供できるようになります。
Experience 4.0は、目的主導、持続可能、没入型、包括的、非接触の未来型顧客エンゲージメントを構築するためのフレームワークであり、“エクスペリエンス”主導の成長を促進し、ロイヤルティを向上させます。このフレームワークは、「ブリッジタル」なエコシステムを活用し、デジタル世界と物理世界、そして各ステークホルダーやエコシステム間のギャップを埋めます。また、体験をパーソナライズするための倫理的な深層学習も取り入れています。
目指すのは、成長の促進、ブランドプロミスの達成、そしてカスタマージャーニーの全体的な改善の3つです。
6つの特徴
1. すべての人に対する体験:
人間中心のデザインを通じて、顧客、従業員、パートナー、サプライヤー、そしてコミュニティーの各ステークホルダーに向けてパーソナライズされた体験を提供することで、ビジネスエコシステム全体から価値を引き出せるようにします。
2. 目的主導:
目的は、組織の運営モデルやビジネスモデルの中核をなすものであり、あらゆる顧客体験の道しるべとなるべきものです。Experience 4.0には、TCSのBuilding on beliefの理念が組み込まれており、企業がブランドプロミスやパーパスを実現することでビジネスをより良いものに変え、顧客ロイヤルティを高めることを可能にします。
3. 持続可能:
持続可能なモデルは、地球を育み、包括的な経済成長をもたらします。体験の中心には、環境への配慮があるべきです。
4. 「ブリッジタル(Bridgital) *2」なエコシステム:
体験は、民間、公共、公民セクター全てを利するものでなければなりません。また、オフラインとオンラインの間のギャップを埋め、シームレスで摩擦のないものにするべきです。
5. 倫理的な深層学習:
人工知能(AI)と深層学習は、責任を持って公正かつ倫理的に利用されなければなりません。パーソナライゼーションが成功の鍵となる一方で、組織は顧客情報のプライバシーを維持しつつも賢明な方法でそれらを活用し、「超パーソナライゼーション」を実現する必要があります。顧客の同意、プライバシー、信頼は常に維持されるべきものです。
6. 没入型かつ包括的:
顧客エンゲージメントは、より創造的、協働、かつ豊かな体験を通じて、一人ひとりにより多くの選択肢と主体性をもたらし、新たな可能性とパフォーマンスの向上を促すものでなければなりません。そのプロセスは、人間中心で誰もがアクセスできるものであるべきです。
顧客体験(CX)を重視するのであれば、Experience 4.0のフレームワークは非常に有効です。人間の創造性と、テクノロジーを組み合わせることで、“エクスペリエンス”主導の成長を実現し、将来に渡って有益な存在であり続けることができます。しかし、Experience 4.0はさらなる革新への第一歩に過ぎません。
企業と、そのブランドが、テクノロジーでより人間の心理を分析し、サービス全体に渡って顧客体験をオーケストレーションし、向上させることに注力すれば、期待通りの成果を達成し、顧客体験の提供から得られるリターン(ROX)を高めることができるでしょう。
*1. カスタマージャーニー:
商品との出会いから購入、契約に至るまでに顧客がたどる一連のプロセス
*2. ブリッジタル:
タタグループのチャンドラセカラン会長が提唱する未来に向けた強力なビジョン。インド人が全国でつながり、最も必要とされる場所にサービスが提供されるためのネットワークを構築できるダイナミックなテクノロジー
企業は、顧客と、そしてより大きくエコシステム全体を深く理解することで、シームレスで高度にパーソナライズされた素晴らしい体験を、あらゆるステークホルダーに提供することができるようになります。