昭和電工 株式会社
黒鉛電極事業において世界シェアのトップを走る昭和電工株式会社様。
グローバルな視点のシステム運用保守で、世界各国の拠点を結びビジネスを展開する。
※本文内の社名およびロゴは2021年3月時点のものです。
昭和電工株式会社(以下、昭和電工)様は「動かす」をコーポレートメッセージとして掲げ、「お客様の声を聴き、技術を磨くことで『こころ』を、『社会』を動かす」企業を目指し、エネルギー・環境、情報・電子など多くの分野へ、無機・金属、有機化学技術による個性的な製品を提供する化学メーカーです。
昭和電工様において、電気製鋼炉による製鋼に欠かせない黒鉛電極(GE:Graphite Electrodes) は、同社を代表する製品の一つです。2017 年には、中期経営計画〝Project 2020+″(2016 ~ 2018 年)に基づき、カーボン事業を成長させるため、さまざまなカーボン事業を営むドイツのSGL Carbon GmbH 社の黒鉛電極事業SGL GE Holding GmbH( 以下SGL GE) を買収し、SHOWA DENKO CARBON Holding GmbH( 以下SDCH)社を設立、黒鉛電極事業における世界シェアナンバーワンへと躍り出ました。
このM&A によるシナジー効果の早期実現に向け、昭和電工様ではPMI (Post Merger Integration)の一環として、IT 環境の刷新に取り組まれることとなりました。そこで、ERP パッケージとして採用したのがSAP S/4HANA です。SGL GE 社が運用していたIT サービスの契約が2020 年1 月に終了することから、このタイムリミットまでに新システムの導入を実現し、速やかにビジネスを支える安定的な運用を開始する必要がありました。
導入プロジェクトを進める中、昭和電工様では新システムの高品質な運用保守体制を構築するために、運用保守のアウトソースを決定されました。そこで、今後の拡張も見据え、運用保守を担うパートナーとして、グローバルで2 万人以上のSAP 人材を擁し、豊富なリソースと運用保守実績、シェアードサービスモデルによる柔軟な体制構築に定評のある日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ(日本TCS) を選定されました。こうして「S/4HANA グローバル運用保守」プロジェクトがスタートし、2019 年11 月から運用保守に関する調査・計画立案に取り組みました。
運用保守の対象範囲
プロジェクトスケジュール
「システムを構築するベンダーと運用保守を担うベンダーが別ということが、当プロジェクトの特徴であり、非常に難しい点でもありました。当社を含め3 社間で、いかに正確な情報を共有し、滞ることなく作業を進捗させていくか。その擦り合わせを行う、プロジェクトマネージメントが、プロジェクト成功のカギになると考えました」と、プロジェクトを統率するカーボン事業部グローバル統括部の内藤 毅グローバルIT マネージャーは振り返ります。
当時、昭和電工様本社でもSAP S/4HANA 導入が進められていましたが、当プロジェクトにおけるシステムは、SDCH 社の黒鉛電極事業の拠点に限定したもので、2020 年1 月運用開始時点での対象範囲は、ドイツ、オーストリア、イタリア、スペインの欧州各国とマレーシア。そして構築ベンダーの拠点はインドでした。
日本TCS もインドを拠点としてプロジェクトを進行。プロジェクト立ち上げ当初は、週に2 ~ 3 回というきめ細やかなコミュニケーションを取り、ステータスの確認を行い、課題があればすぐに調整することを徹底しました。
また、プロジェクトの責任者である情報システム部長の柴田 英樹様は、プロジェクトメンバー全員が目的や情報を共有し、よりスムーズなコミュニケーションを実現するために、プロジェクトスタート後間もなく関係者をインドやドイツに集め、直接の顔合わせを実施しました。
これが、プロジェクトがスムーズに進んだ大きな要因の一つだと内藤様は語ります。
「複数の国をカバーするシステムだけに、現地のグローバルキーユーザーとフェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションができたということは、プロジェクト成功の大きなポイントになったと思います」(内藤様)
新型コロナウイルスの世界的感染拡大が始まる直前だっただけに、直接顔を合わせる機会をプロジェクト初期に持てたことは、なおさら重要だったといいます。
当プロジェクトでは、米国の昭和電工カーボンInc. のシステム刷新も実施することとなり、2020 年1 月にスタート、7 月運用開始という別スケジュールで進行しました。こちらのプロジェクトは導入スケジュールがコロナ禍とぶつかり、一度も現地を訪れることなく運用を迎えることになった分、苦労が多かったといいます。
「米国側の担当者が細かなルールをつくり、Web ツールを活用して密なコミュニケーションを図ってくれたおかげで、コロナ禍の影響を受けリモートでの対応となったものの、無事予定通り7 月にサービスインすることができました。想定外のことでコミュニケーション不足から、ユーザーへの浸透度という面で少し心配しましたが、今後はこうした事態も見据えた対応を検討していきたいです」(内藤様)
今回のシステム導入に際して、昭和電工様が重要視したのは、「カスタマイズを極力減らし、できる限り標準機能で利用する」ということでした。それは当然、運用フェーズにおいても同様で、トップマネージメントにより進められました。
そこで注力したのが、円滑運用のための組織づくり。各拠点にファンクションのモジュールごとにキーユーザーを置き、さらにグローバルキーユーザーというポジションを設置、その上に「インターナルSAP コンサルタント」と名付けたSAP システムの理解度が深いインターナル・エンジニアを数人アサインしました。
カスタマイズが必要か、標準機能の範囲内で対応可能かということを、あらかじめ社内で検証することで、不要なカスタマイズを減らすことが目的です。
「組織内でチェンジボードミーティングというものを開いて、ユーザーから出てくるリクエストに対して、本当にやるべきか、やらずに済ませられるかを判断し、できる限り標準機能での運用ができるようにしています」(内藤様)
モジュールごとのカスタマイズを極力抑え、標準機能を最大限に活用した運用にこだわるのは、今後の展開を視野に入れてのことです。
「新システムの運用がもう少し落ち着いたら、ほかの海外グループ会社のIT 業務をチェックし、もしフィットするところがあれば導入することも考えられます。ERP を一から構築すると多大なコストや労力がかかりますが、最小限のチェンジリクエストで済めば、コスト的にもそれほど負担になりません。このグローバルERP をそういう形で生かすことができればと思っています。そうした対応に関しても、ぜひ日本TCS の方々と協力して進めていければと思っています」(内藤様)
当プロジェクトでは、当社のインドセンターのシフト活用による24 時間サポートが大きなポイントとなるサービスメニューです。特に米国拠点が加わり、サポートする時間帯に大きな時差が発生したことで、その重要性はさらに高まりました。
当初は3 交代のシフトによるサポートが検討されましたが、その分コストが増えるなどの課題を検討する必要がありました。そこで、すでに運用が始まっていた拠点にヒアリングをした結果、問題なく安定運用が行われていることから、拠点ごとのサポート時間を融通し合うことで十分にカバーできる体制を取り、2 交代のシフトでの運用を実施、コストを抑え安定した運用体制を実現することができました。
「最初の計画から変更になった部分にも、ユーザーの状況を理解し、フレキシブルに対応して、可能な体制をつくっていただけました。運用状況も非常に安定していましたし、プロジェクトを進めるに当たり、SAP 特有の用語が飛び交うこともありましたが、SAP を熟知したキーユーザーだけでなく、全てのユーザーと共通認識を持てるように、工夫をしてくれたり、現地ユーザーと良好な関係を築いてくれていたことも、ユーザーの理解を得られた理由だと思います」(内藤様)
安定した運用保守はもちろんのこと、要望に対する柔軟で真摯なタタコンサルタンシーサービシズ(TCS)の対応には満足していると内藤様。
「今回のプロジェクトは、とにかくオンスケジュールでシステムを立ち上げて引き継ぐことが絶対条件でしたので、まずそこがクリアできたことで安心していますし、TCS の皆さんにも感謝しています。加えて、“ カスタマイズは行わず、標準機能でいこう” というこちらの要望をしっかりと理解した上で、さまざまなリクエストに関しても、1~ 2 週間後には複数の提案をしてくれました。検討した上で採用しないことももちろんありましたが、自分たちの選択肢を増やしてくれたことは、非常にありがたいことでした」
システムの安定した運用が進む中、当社にさらに望むことは、今後の展開に即した新たな提案だといいます。現在、当社では、チャットボットやAI 搭載のTCS ignio を活用したMFDM(マシン・ファースト・デリバリー・モデル)の導入による自動化・高度化・効率化などを提案しています。
内藤様は、「最新技術に関する知見に関してはとても頼りにしています。例えばAI に関しても大いに興味はありますが、どんな技術でも肝心なのは、どれだけ私たちの現場やビジネスにフィットするかということです。その辺を一緒に見定めて、昭和電工のビジネスにより突っ込んだスタンスでの提案を期待しています」と言います。
今回のプロジェクトは、ドイツを本拠地としてのグローバルプロジェクトで、言語、文化、時差などにおいてハードな要素が少なくありませんでしたが、その分得られたことも多いと内藤様は振り返ります。
「現在運用されているグローバルシステムをベースとして、今後さらに展開が見込まれるほかの関係各社や新たな業界再編の動きに対応していきたい」と語る内藤様。
日本TCS も、知見をさらに蓄積し、継続して昭和電工様のサポートができるように努めていきます。
プロフィール
内藤 毅 様
昭和電工株式会社
カーボン事業部グローバル統括部
グローバル IT マネージャー
※掲載内容は2021年3月時点のものです