電気自動車 (EV) は、次世代のコモディティとして世界中で注目されています。20世紀初頭にはEVが大きなシェアを占めていました。その後、内燃機関(ICE:Internal Combustion Engine)を用いた自動車が競争で生き残り、大衆に支持されていきました。
そして近年、バッテリー搭載EVへの注目は高まりつつあります。日産自動車が2010年にリリースした電気自動車「リーフ」の世界累計販売台数は60万台(2023年2月時点)を超えています。また、電気自動車の世界販売台数は過去2年間で倍増しています。
この背景には、気候変動リスクの軽減や石油使用量の削減を目指す動きがあります。世界各国の政府は、補助金などの政策を導入してEV販売を後押ししています。しかしながら、主要な地域の自動車市場におけるEV販売の成長ペースは低い水準といえます。
その原因の一つは、EV充電インフラ(EVCI:Electric vehicle charging infrastructure)にあると考えています。自宅でのEVのバッテリー充電の整備は進みつつありますが、さらなるEVの利用促進には公共の充電インフラの普及が求められているのです。
このホワイトペーパーでは、EV充電インフラの設置に関連するいくつかの主要な課題とタタコンサルタンシーサービシズ(TCS)による アジャイルベースの段階的アプローチについて紹介します。
このアプローチにより、技術面のギャップを埋めてコストメリットをもたらし、EV普及の課題をより広範囲に解決し、EVのグローバル展開を加速することができます。
脱炭素社会を実現するために、各国ではガソリン車やディーゼル車などからEVへの転換が推進されています。日本を含め各国の自動車メーカーはEV販売目標台数を掲げ、EV普及が加速度的に進んでいく可能性があります。
EVの普及を進めるためには、インフラ面での整備が欠かせません。EVの充電方法は通常充電と急速充電の2つに大きく分類ができます。通常充電は自宅で行われ、その充電設備も比較的安価に購入できることからEVとセットで整備するものと考えられます。一方で、急速充電は外出先での利用が主になりますが高額であり場所の確保も必要で、簡単には整備が進みません。ガソリン車のためのガソリンスタンドがあるように、EVを利用する各シーンに急速充電の施設が配備されていることが、EV普及の重要な要素といえます。
1. 通常充電/低速充電 (単相AC充電器)
2. 急速充電 (DC充電器または3相AC充電器)
昨今では、長距離の移動にも対応できるよう大容量のEVバッテリーも登場しています。発火や爆発の危険がないよう各国共通の安全基準や国独自の安全基準を追加ケースもあります。
こうした基準に応じることは、バッテリーの製造だけではなく、EV充電インフラ(EVCI)の導入や展開の際にも考慮が必要です。
TCSでは、メキシコ、バルバドス、オーストラリア、ニュージーランド、ブータン、韓国、ノールウェー、ブルガリア、ルーマニア、イギリスなど各国のEVCIの展開に従事した豊富な経験があります。それらの経験からEVCIの展開の際には、いくつかの考慮点を踏まえて進める必要があることがわかりました。
① 国/地域の電力供給変動の把握の難しさ
国や地域の電力品質の理解は重要です。EVの車載充電器が利用する国や地域の電力条件に応じて設計されていない場合、電圧の変動と高調波により性能低下を招きます。また不連続な充電が発生する恐れもあり、バッテリーの劣化や充電効率の低下を招きます。
② 国/地域ごとの法規・標準規格の違い
EVCIは国や地域の法規と標準規格に基づいて設置する必要があります。国や地域ごとに法規・標準規格が異なるため、すべての国/地域に同じ設置方法を適用することはできません。
③ 適切な充電ケーブル(EVSE: Electric Vehicle Service Equipment)サプライヤーの選定
国や地域の電力状態に応じて、適切なEVSEでEVを充電する必要がありますが、対応するEVSEサプライヤーを特定するのは、時間と手間がかかります。
また、EVSEとEV間の互換性確認のための厳密なテストを実施する必要があります。
④ 適切な国/地域の設置業者の選択
EVSEサプライヤーと同様に、充電器を設置、保守サポートを請け負う適切な国/地域の設置業者を選択することは、時間と手間がかかります。
また、設置業者が適切な手順を漏れなく記載したEVCI設置マニュアルを作成できるかどうかの確認も必要です。
⑤ 充電仕様の合意に向けた国/地域の行政機関との協議
行政機関と次の事項について協議が必要です。
EVCIの展開は全8フェーズで進めます。すべてのフェーズの成果物は、小規模かつ頻繁なリリースによる継続的な改善を行います。この段階的なアプローチにより、成果物の早期作成と効率的なEVCI展開が可能になります。
フェーズ1:国/地域の法規と標準規格の理解
フェーズ2:国/地域の電力品質の理解
フェーズ3:設置に適した充電器/EVSEの特定と検証
フェーズ4:国/地域の設置業者の特定と最終決定について、EVメーカーを支援する
フェーズ5:国/地域の設置業者/EVメーカーへの設置マニュアル作成支援
フェーズ6:EV充電ステーション設置時に国/地域の設置業者/EVメーカーを支援する
フェーズ7:EV充電ステーションのメンテナンスに関して国/地域の設置業者/EVメーカーを支援する
フェーズ8:EVCIの機能向上にむけたEVメーカーへの支援
TCSは50カ国以上で事業を展開しています。そのネットワークや知見を活かし、主要なEVメーカーが、英語圏以外の国や地域でも言語の壁を乗り越えてEVを販売していくことを支援してきました。
TCS のアジャイルベースの段階的アプローチは、「安全で信頼できるEV充電の確保」「EV充電時のユーザーの安全の確保」「EV充電時のユーザーの不便や不安の防止」という3つの目的達成を目指します。このアプローチよって、EVメーカーは、安全で信頼性の高い EV充電を確保し、EVの世界中での販売を促進しています。
一部の国/地域の設置業者にとって、設置マニュアルのコンセプト理解や実施など、TCSのアプローチは時間を要するかもしれません。しかし実際の世界各地の業務経験を踏まえて策定したTCSの現実的なアプローチは、多くのお客さまに支持されています。
※掲載内容は2023年5月時点のものです