※本稿は、タタコンサルタンシーサービシズ(TCS)Supply Chain as a Service担当ディレクターであるトニー・グレイが、サプライチェーン業界のメディア「Supply Chain Brain」に寄稿した記事を監訳したものです。
小売企業は、業務やコストの効率向上にITを積極的に活用しています。高度な需要予測システムは販売と需給計画の統合を実現し、データを可視化して分析結果を一元管理できます。さらに、デジタルツインやAI、各種シミュレーションなどの技術はサプライチェーンの最適化に寄与するとされています。しかしながら、米国の小売企業はこれらサプライチェーンのテクノロジーやデジタル機器等に投資しているにも関わらず、思うような成果を得られていません。
2010年から2020年にかけて、小売企業のサプライチェーンに対するテクノロジーへの投資額は非常に高く、サプライチェーンサービスも提供しているSAPの収益だけを取り上げても2,230億ドル以上となっています。一方で米国小売業全体の財務データを見直すと、テクノロジーへ投資をしても営業成績の大きな改善を実現できていないことがわかります。
2011年から2020年にかけて、大手小売企業であるウォルマート、ターゲット、クローガー、ホームデポ、ダラーゼネラルの売上高合計は5,900億ドルから9,040億ドルに増加し、年平均成長率は3.6%となりました。売上高に占める売上原価の割合は25.62%から26.17%の狭い範囲で推移し、2017年と2018年にピークを迎えています。売上原価の上昇を抑えられたことは、ベンダーコストや調達コストの管理を支援するテクノロジーへの投資の有効性を反映していると言えます。
しかし、販売管理費に視点を移すと様子が変わります。2011年から2020年にかけ、売上高に占める販売管理費の割合は1.44%増加しており、営業利益が0.98%減少してしまった主な要因となっているのです。
小売業において、給与はコントロール可能な最大の費用と言えます。大手小売企業の詳細な給与情報は公表されていませんが、労働統計局の報告書から一般的な傾向がわかります。2011年から2020年にかけて、米国の小売店の人員は17.5%減少しています。COVID-19の影響が強かった2020年を除外しても12.1%の減少となっています。同期間中、米国のサプライチェーン、すなわち倉庫、輸送に関わる人員は10.2%増加しています。最も増加した役割が管理職層で、16%を占めました。店舗運営とサプライチェーンの賃金水準を比較すると、店舗運営の方が低い傾向にあるため、以上の数値から、小売業の給与は全体的に純増していることになります。
サプライチェーンのテクノロジーは今後も小売業を支える重要な要素であり続けるでしょう。そして、テクノロジーへの投資の効果を高めるには、以下のような手法が考えられます。
小売企業は今後もサプライチェーンに関わるテクノロジーへの投資を加速させていくでしょう。数あるテクノロジーのなかでも、財務状況や営業成績を向上させる投資を行うのが賢明です。テクノロジーによって調達コストや売上原価を改善してきたように、販売管理費など将来の社内業務の改善にもテクノロジーを活用する必要があるのです。
日本企業にむけて
近年小売業においては、モノ売りからサービス売りへのシフトが進んでいるだけでなく、並行してサプライチェーンを見直すことで収益を高めることも注目されています。しかしそれは単純なテクノロジーの導入だけでなく、それを最大限生かすためのデータの整備や組織・意思決定構造の見直しなど、業務上のプロセスから見直す必要があります。TCSには、世界の大手小売企業を支援してきた知見と実績があります。世界の小売業がどのように取り組んでいるのか、それを日本企業に紹介しつつ、お客さま独自の課題解決を支援します。